AD 2015
 

いわゆる犯罪急増都市
 

強者は人間、弱者は虫
 

力の無い者をそう蔑み、平気で踏み潰す
 

それがあたり前だと考える人間(ゴミ)が巣食っている
 

ここは第三東京、狂都市『クレイジーパラダイス』


第三東京クレイジーパラダイス2 (前編)



 
 
 
 

「はっ、はなしてよーーーっ!!」
「白昼だって、女一人で歩いているのは犯して下さいって言ってるみたいな物だぜ」
一人の少女が、柄の悪い数人の男たちに囲まれている。いやらしい顔をした男達を見れば、これから起ころうとしている事は一目瞭然であろう。
「なんだよ、一人で歩いてるんだから誘ってるんだろう?」
「・・・っ・・・ええいっっ!」
追い詰められた少女は、懐からスタンガンを取り出すと、取り囲んでいる男の一人を感電させようとするが、簡単に避けられてしまった。
「おっと」
ドンッッ
後ろに飛び退いた男は、歩きながら本を読んでいた通行者にぶつかってしまう。
「ごめんなさい・・・、今、よそ見してた・・・」
男にぶつかられた蒼銀の髪をもった少年は、反射的にあやまった後、その紅い瞳でじっとぶつかった男の顔をみつめた。
「・・・・・・・・・・って、あなた、ヤクザね・・ふっ、道の真ん中で邪魔」
言うが早いか、少年の拳が男の顔面に吸い込まれ、少女を脅していた男は数メートルぶっ飛んだ。地面に落ちた後もゴロゴロと転がり、電柱にぶつかってやっと止まる。
「「「ひっ、ひいいいっっっ」」」
泡を吹いて気絶している男を見て、彼の仲間達が蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。
かなり身長差のある相手をふっとばした少年に度肝を抜かれたのだ。
「ヤクザに触ってしまった・・手が腐る・・・」
少年は逃げて行くチンピラ達を横目に、ゴシゴシと殴った拳を服て擦ると、残念そうに、もう一方の手にもっていた雑誌に視線を移す。
「もっと派手に稼げる仕事は無いの?・・・無様ね・・」
一人ごちて、求人雑誌をごみ箱に投げ捨てた。
「あ、あの・・・・」
「何?」
「た、助けて頂いてありがとうございました。貴方のお名前は?」
チンピラに襲われかけていた少女が、おずおずと少年に話しかけてきた。
「綾波レイ・・・・うんっ!?」
「きゃっ!!」
いきなり鼻をピスピス言わせてレイが後ろを振り返ったので、少女はびっくりしてしまった。
「ど、どうかしたんですか?」
「すんこ、すんこ・・・・匂う・・」
「え?」
「こっちから・・・間違い無い、これは現金(ゼニ)の匂い」
「????」
鼻をピコピコと動かしながら駆け出したレイを、助けられた少女は呆然と見送った。
犬の様に四つ足で走って行く様に見えたのは、きっと彼女の目の錯覚だろう。
 
 

八島組、最高幹部会

「三代目、やはりこちらでも動きがありました。関東でも名があろうかと思われる組織の間に差し出し人不明の多額の金が送りつけられてます」
「・・・・」
報告を受けているシンジは、何も言わずに分家の頭たちを眺めている。
「穏やかじゃないな、この世界で大金が飛び交うなんてのは。それも第三東京だけじゃなく、関東規模だ」
「まさか何かおっ始める気じゃ無いだろうな」
「何かって何・・・・・あっ!まさかアレを・・・?」
「まさかっ!あれは『例の事故』があってから、我々が中止させてもう4年になる。再び蒸し返す様な胆が奴等にあるわけなかろう」
「奴らは長いモノに巻かれるタイプの人間だ。しょせん狼に睨まれて動けるカエルじゃない、わははははははは。」
「いや、これは一本とられましたな、はははははは」
「ねー三代目?はははははは・・はは・・・は・・・は」
「・・・・・」
冷たい顔で和気藹々とした会議を眺めているシンジに、組員たちの笑いが凍った。
なまじ奇麗な顔をしているだけに、シンジの無表情には威圧感があるのだ。
「・・・・とにかく、この関東を仕切っているのが我々八島組である以上、黙って見ている訳には行きません。なにか起こるなら、その金の出どころを掴めば自ずとその中核にいる人物が浮かびあがるはずです。引き続き探りを入れてください。以上・・・」
先代のゲンドウを上回る鋼顔に、組員達は笑うのでは無かったと後悔して真っ青になっている。八島組を束ねる人間なのであるから、隙を見せないシンジの態度は当然と言えば当然の物であるが、ここまで来ると感情が無いのではないかと疑いたくなって来る。
「三代目」
組員たちが凍っている中、加持がシンジに耳打ちする。
「レイさんがお見えになったそうです。」
「・・・・分かった、すぐに行くよ。」
レイと言う名前を聞いた時、今まで鋼の様に動かなかったシンジの表情が柔らかい物になった。
「「「「「!!!!」」」」」
「もしかして、今笑ったか?」
「わ・・・・私に聞かないでくれ、自分が見た物に自信が無いんだ」
「いや〜、無表情に努気をはらんだ表情以外も出来るんですな〜」
「いやいや、ぜひまた見せてもらいたいもんです」
シンジが出て行った会議室は、始めて見たシンジの微笑みのせいで騒然となった。
 
 

碇邸、玄関近く
 

「放して・・・」
大理石で出来た柱には、レイが鎖でしばりつけられていた。
「・・・人の弱みにつけ込んで汚い罠を仕掛けるなんて・・・」
レイに睨みつけられたシンジは、懐から手のひらサイズのペロペロキャンディーを取り出し、レイの口に突っ込んだ。
「ヤクザ、ヤクザ、極道、極道、極・・ふみゅ、もがっ」
「そんな事言ったって痛くも痒くもないよ、だって極道だもん」
口が横一文字に広がったレイを、加持と時田がシンジの後ろで苦笑して見ている。
実はレイがこういった状況に陥ったのには訳がある。 
襲われていた少女を偶然助けた後、金の匂いにつられてフラフラする内に、レイは札束が落ちているのを見つけた。
すごく不自然で、しかもスズメ取りの罠の様に札束には紐がついていたのに、札束を見て舞い上がっていたレイは気付かず、あっさりと捕獲されてしまったのだ。まさに動物並である。
「借用金加算100万円なり〜」
「むぐぐぐるぅ〜〜〜っっ!」
加持が電卓でキャンディー代をレイの借金に追加した。
「仕事もしないで逃げたりするから、こんな目に会うんだよ。」
「ボディーガードするのは借りてた80万を返すまでと言う条件のはず」
一気にキャンディーを飲み込んだレイが反論するが、シンジは涼しい顔をして聞き流す。
「80万が返せたからと言って契約を破棄するなんて一言も言ってないよ。だって、綾波が僕に新しく借金してるからね。返済額、九千六百万」
「嘘・・・・色々な姑息な手段を使ったくせに・・・・・。前に泊りがけで仕事してた時だって、無理やりお茶飲ませて・・・」
『五千五百円、追加しま〜す』
「その次は無理やり押さえ付けてから、ご飯食べさせて・・・」
『七万八千円、追加しま〜す』
「庭で野宿しようとしたらベッドに縛り付けて・・・・」
『宿泊代、十二万、追加しま〜〜〜〜す』
加持が電卓をピコピコと叩く音が、レイの頭の中にエコーする。
「そんな九千六百万なんて借金、私の意思とは関係無い。だから今後、碇君をボディーガードする義務も、借金を返済する義務も無いわ。」
「ふふ〜〜ん、そう・・・・確か、毛色の変わった10代の子供を高く買ってくれる変態おやじがいたはず・・・『外見』と『実態』が違う綾波なら、結構興をそそるかもしれないね。」
「!!!」
加持の手から電卓を奪うと、シンジは何やら計算を始めた。
それを見て、レイの色白な肌が更に白くなって行く。
「・・・・払う、すごく自分で払いたくなった。体を売るのはイヤ・・・」
「言ったね」
振り向いたシンジはニヤリと笑った。その邪悪な微笑みは、彼の父ゲンドウがよく浮かべていた物と酷似しているのを、彼は気付いているのだろうか?
「しっかりと頭に叩きこんでおいてよ。僕に一円でも借金している限り、君は逃げられないんだからね。一日でも早く僕から離れたかったら、せいぜい僕から離れない様にする事だね。ふふふ。」
レイは涙目になってシンジを睨んでいる。 
彼女には分かっていた、シンジが払う一方でぶくぶくと借金を膨らませて行く事に。
そんな彼女を見て楽しんでいるのかと思うと、悔しさで涙が出て来たのだ。
「・・・・・・・」
「?」
ふとレイがシンジを見てみると、彼は何故か真剣な顔でレイを見つめていた。
どこか寂しげな、抜け殻の様な顔である。
レイが見つめ返している事に気付くと、シンジはくるりと後ろを向いて、玄関用のソファーにどっかりと腰を下ろす。
「加持、もういいよ」
「あ、はい」
加持が鎖を解いてくれたので、レイはやっと自由の身になれた。
「綾波も八島組の組織勢力は分かってるはずだよ。逃げた飼犬を探す事ぐらい、一時間もあればやってくれる。二度と逃げられないように首輪と鎖で繋がれるのが嫌なら、ちゃんと仕事に専念してよね」
「飼犬って・・・・?」
「もちろん綾波だよ」
「!!!」
シンジは煙草に火を付けると、14歳とは思えない見事な吸いっぷりで煙草をふかす。
「おっと、札束(ズク)の匂いを嗅ぎつけるんだから、ハイエナの方が良かったかな?」
「・・・・」
「あ、そうだ、今回のも横領しかけた罰として倍返ししてもらよ、加持?」
「はい」
また加持が電卓を出すと、ピポパとボタンを押し始めた。
「鬼、悪魔、ヒトデナシ、妖怪、モンスター、エイリアン・・・・汚い・・・決めた、絶対に警官になって、碇君を逮捕する・・・・一生かかっても必ず・・・。今の内に悪行の数々を沢山つかんであげる・・・」
少しは脅しになったと思ったレイだったが、シンジはクスリと笑って、
「期待してるよ」
と悠然と言い放つ。
「・・・・帰る」
なんだか負けた気分になったレイは、悔しそうな顔をして玄関から出て行こうとした。その背中に、シンジが話しかける。
「綾波が世話になってるって女(ひと)に、僕がよろしく言ってましたって伝えておいてね。一応飼い犬を預かってもらってるんだから。それと、明日は10時に家を出るから、ちゃんと迎えに来てよね、忠犬レイ公」
「私は犬じゃ無い・・・」
頬をふくらませて出ていくレイを見て、シンジはクスクスと笑ってしまった。
 

「警官・・・か・・・・それも良いかもしれないね・・・」
 
 

夜の第三新東京市・・・・
 

様々な人々がいきかうこの街でも、路上でいきなり一人プロレスを始める人間は稀にしかいないであろう。・・・と言うか、そんな事をするのは、この人だけである。
「悔しい・・悔しい・・・悔しい・・・」
路上でバタバタとやられ役を演じるレイを、通行人が避けて通って行く。
「ママ〜、あのお兄ちゃん、変だよぉ〜?」
「シッ!だめよアキラちゃん、目を合わせちゃ駄目っ!!」
まるで変人扱であるが、実際に変なので、いたしかたが無いであろう。
「・・でも、心底碇君を恨めない自分がもっと悔しい・・・」
一段と激しく暴れ出したレイの周りは、何時の間にか誰もいなくなっていた。
「はあ、はあ、はあ・・・」
レイは、今日シンジが見せた抜け殻の様な表情が気になる。
昔から、シンジの素性を知っていて近づく人間なんて居なかった。レイもシンジとは小学校一年の時から同じ学校で同じクラスだったが、はっきり言って犬猿の仲で口などきいた事も無かったのである。それはシンジの父親が極道で、レイの両親が警官と言う天敵であった為だが、いつも一人だけクラスから外れているシンジの、あの抜け殻の様な顔に気付く度に、レイはシンジを嫌っていた事を忘れ、彼と折り合って行けそうな気分になってしまったのだ。ずっと昔、川で溺れていたレイを知らない内に助けてくれた時も・・・、その時ばれてしまったレイの秘密を誰にも言わなかった時も・・・。
だから、レイはあの表情に弱かった。
「・・・・帰ろう・・・」
起き上がって体に付いた埃をはらうと、レイは家へ向かって歩き出す。そんな彼女の耳にビルに取り付けられた大型テレビから流れてくる宣伝が聞こえた。
『――優勝賞金は一億円・・・』
「!?」
レイの耳はすかさず広がり、まるでダンボの耳の様に大きくなる。
『応募資格は16歳から20歳まで、「我こそは格闘技の鉄人!」と言う女性の方ならプロ、アマ問いません』
「・・・・・」
『さあ、格闘腕自慢の女性の皆さん、こぞって女子異種格闘技選手権へ参加して下さい』
「・・・・・ふ・・」
『なお、応募締めきりは予選日第一日午後一時に締め切る事になっておりますので――』
「一億・・・・・ちょろいわ・・・・ククク・・・」
ニヤリと口元を歪めたレイの目は、ギラギラした物へと変化して行く。その紅い瞳には、『¥』のマークが浮かび上がっている。
応募資格は16歳から20歳までと言っているが、そんな物はカツラをかぶって、化粧をすれば軽くごまかせるはずである。
「ふ・・・・賞金、もらったわ・・」
鼻息を荒くして大型テレビを見つめるレイに、一人の女性が近寄って来た。
「レイくん」
レイが呼び声に振り向くと、栗色の髪をショートカットにした童顔の女性が立っていた。
買い物の帰りなのか、彼女の手にはいくつかの袋が下げられている。
「あ・・・・マヤさん」
「お帰りなさい、今日は早かったのね」
「ええ・・・今日は夜の仕事は無かったから・・・」
「そう」
「マヤさん、一人で歩いてると危ない・・・」
「大丈夫よ、護身用具を持ってるから」
「そ・・・」
ムサシ、ケイタ、そしてレイの三人は、現在この伊吹マヤと言う女性の所に居候している。
もともとレイたち三兄弟は、シンジの所に泊り込んで借金を返していたのだが、シンジの悪魔の様な仕打ちに耐えきれなくなった彼らは逃げ出した。それで行くところが無くてのたれ死にしそうになっていた所を、マヤが引き取ってくれたのだ。
人間と言う物が一番信用できない時代だが、始めて会ったマヤは、レイ達にすがりつく様な目をしていて、なぜだか信用して上げなければいけない様にレイには思えたのだ。
 

伊吹マヤのマンション
 

「レイ、お前また道の真ん中で一人ゲンカしてたんだって?」
夕食後、洗った皿を布で拭きながら、ムサシがレイに話しかけた。その隣では、ケイタも皿磨きをしている。
「恥ずかしい奴だなぁ、もう・・・・」
「違う・・・あれは怒りを表わす一人ゲンカ・・・・私が恥ずかしく無いから良いの・・・」
レイは皿磨きはせず、マヤの肩をもんでいる。マヤはコンピューター関係の仕事をしているので、毎日キーボードの打ちすぎで肩がこるのだ。
ある日マヤがぼやいているのを聞いたレイが肩をもんでから、これは毎日の日課になっていた。
「私は、出来ればあまりレイちゃんにはケンカして欲しくないわ」
少し悲しそうにマヤはつぶやいた。
「ケンカは頼まれてもしない・・・だって、嫌いだもの」
嘘をつけ、とムサシとケイタ心の中で突っ込んだ。よくもまあケンカが嫌いなどと大嘘をつけた物である。小田原組に襲われた時、倒した相手の首を締めて恍惚としていたのは一体何処の誰なのであろうか?
「マヤさん、お風呂が沸いたみたいですよ」
キッチンに付いているタイマーを見て、ケイタがマヤに知らせた。
「レイちゃん、お風呂一緒に入ろうか?」
「問題無いわ」
 

「時代が女の子にとって、すごく生きにくくなって来てるのは分かるわ。最小限の護身術や、護身用具を持ってないと外もあるけないから・・・。これから先、女の子が男の子より強く生きて行く術を覚える事も必要だと思うの」
湯船に浸かったマヤは湯船の縁に顎を乗せて、シャワーを浴びているレイに話しかけた。
「・・・・だから、亡くなったあなたの御両親が、あなたをそう育てられた意思も全く分からない訳でも無いわ。・・・でも、私には100%それが正しいとは言えないの・・」
「分かる気がする・・・マヤさん四年前に、たった一人の妹を護身様に始めた拳法で無くしたから・・・・」
シャンプーを洗い流したレイは、湯船に浸かるとマヤの隣に座る。
「レイちゃん・・・私、レイちゃん達にこのままずっとここにいて欲しいの・・嫌?」
「嫌だなんて・・・そんな事ない・・・。ごはん食べさせてもらって、服買ってもらって、捨てられたらどうしようって、いつもムサシとケイタが言ってるのに」
プルプルと頭を振って否定したので、レイの蒼銀の髪から水滴が飛んで辺りに飛び散った。あまり必死になって否定するレイを見て、マヤはクスリと笑ってしまった。
「じゃあ決まりね」
上目使いにマヤを見ているレイに、ニコリと笑い掛ける。
「でも・・・本当に良いの・・?」
「レイちゃん、こんな世の中でもね、他人の為に何かしてあげたいって思ってくれる人が、まだ居るのよ」
「・・・・ありがとう」
「ふふふ・・・レイちゃんってね、私の妹に似てるトコロがあるの」
「そう・・」
マヤの妹、アヤはどんな時も立ち止まったりしない、とても芯の強い女の子であった。
そして、マヤはそんな彼女の事を羨ましく思う事が時としてあったのだ。
 

夜、レイ達兄弟に与えられた部屋からは、ムサシとケイタの寝息が規則正しく聞こえていた。もっとも、寝相が悪いムサシの足がケイタの顔に乗っているので、ケイタは悪夢にうなされているようだが。
暗い部屋の中、レイは眠れずに今日見た格闘技大会の宣伝を思い出していた。
マヤがもし、レイ達に多額の借金があると知ったら、自分が肩代りすると言いだしかねない。しかし、これはレイ達兄弟の問題であって、彼らが何とかしなければならないのである。悲しそうにケンカして欲しく無いと言ったマヤの顔が頭によぎるが、この格闘技大会で勝ちさえすれば、シンジへの借金が一気に返せるのだ。
「マヤさん、ごめんなさい」
ため息をついたレイは、いつしか眠りの国へと旅立っていた。
 
 

第三東京私立ネルフ学園
 

ゴットン
何処からともなく飛んできた鎖付きの首輪が、鈍い音を立てて廊下に落ちた。
反射的に飛んできた首輪を避けたレイが、鎖を辿って行くと、その端は目つきの悪い少年、つまり碇シンジの手に握られていた。
「・・・綾波・・・本当に首輪を付けられなければ分からないの?僕は十時に家まで迎えに来いって言ったでしょ?」
「私も言ったはず・・もう碇くんのボディーガードをする義務は無いって」
二人の視線がぶつかる。
「なぜなら、九千六百万なんて言うハシタ金、今月中には耳をそろえて返すから・・クスクスクス」
「レイさん、この前横領しかけた罰金で九千七百万になってますけど・・」
シンジの後ろに立っている加持が突っ込んだが、レイの耳には入ってない様で、勝ち誇った様な顔をしてレイは続ける。
「だからもう碇君は様済みなの・・・・ククク」
「どう言う意味?」
「・・・・教えて上げない・・・クス」
言うが早いか、レイはシンジに背を向けると廊下にある窓から飛び出した。
「あ!待てっっ!!」
シンジ達がいた廊下は二階にあるのだが、そこの窓から飛び出したレイは、猫の様なしなやかさで着地すると、校門から外へ逃げ出す。
窓から間抜けにこちらを見ているであろうシンジに向かって、中指でも立ててやろうと振り返ったレイは、シンジも飛び降りて追いかけて来るのを見て驚いた。
さすがに加持と時田は飛び降りられなかった様で、窓からシンジを止めようと彼の名前を呼んでいる。
「・・・そんな馬鹿な・・・」
レイは、いびられる為だけに借金をしたり、ボディーガードをしたりするのが心底嫌になっていた。しかし、格闘技大会で優勝しさえすれば、これからは鉛が飛んでこようが何が飛んで来ようが、シンジを守る必要も無く、彼から永遠に解放されるのだ。
なんだかウキウキした気分で走る速度を上げたレイの目に、学校の向かいのビルの上でライフルを構える男が写った。シンジもレイと同時にその男に気付いた様で、身を隠そうともせずに懐から銃を取り出すと、ビルの上へと向ける。
だがビルの上の男はすでに銃を撃っており、鉛の塊がシンジの額へと飛んで来た。
しかし、引き返して来たレイが腰の収納ボックスから引き抜いた鎖によって、弾はシンジに当たる直前に叩き落とされていた。弾が叩き落とされるのと同時に、シンジの銃が火を噴いた。
「ふう・・・」
「・・・・・」
シンジの撃った弾がビルの男に当たるのを見て、飛んできた弾を防いだ衝撃で倒れたレイが横を見てみると、これまた銃を撃った衝撃で倒れていたシンジと目が合ってしまった。
「!!!」
条件反射だ。 すっかりボディーガードが板についてしまったレイは、反射的にシンジを守ってしまっていた。
レイは自分の馬鹿さ加減に赤面し、シンジを一睨みしてから走り去っていった。もちろん、途中で何回か止まっては、一人プロレスを演じながら。
 

「大丈夫ですか、三代目?」
「あ?・・ああ・・・」
車で碇邸へと帰る途中、ぼうっとしているシンジを心配して、運転している加持がバックミラー越しにシンジに話しかけた。
「今、三代目が落とした標的(まと)を時田に調べさせていますが、まさか奴らが手を伸ばしてきたのでは・・・・?」
「それは無いと思う。だって奴らが僕の命を狙うとしても、時期が悪すぎるから。どうせ何処かの賞金稼ぎだと思う。名乗ってる様な物だよ」
きっぱりと言い切ったシンジの目が、いつもの八島組の組長の物に戻っているのをミラー越しに見て、加持はほっとした。
「しかし、どちらにしてもこの女子異種格闘技選手権、裏があると見て間違い無いでしょうね。差し出し人不明の多額の金が、八島組を避ける様にばらまかれている所なんかは、三代目が言う名乗っているのも同じです。事実的にはまだ金の出所は掴めていませんが、四年のブランクです、奴らの金と邪心が飽和して遊び心が疼いても仕方ありません。そこへ『あの男』が絡んで来たとなると進む道は決められます」
突然、車内電話が鳴り出した。加持が運転しながら片手で受話器を取る。
「私だ・・・・ああ・・・・何?」
話している加持の目が丸くなった。
「分かった、ああ、後でまた・・・ああ」
実は、逃げたレイを組の者に追わせていたのだが、その組員からの電話であった。
「三代目・・・レイさん捕獲班からの連絡ですが、レイさん、どうやら女子異種格闘技選手権の予選会場へ入って行っちゃったそうです」
「なるほど・・・」
やっとシンジには、レイがなぜ借金を返せると言ったのかが理解出来た。
「・・・・・どうします?レイさんならきっと裏へまわされますよ・・・?」
「構わない・・その方が好都合だから、そのまま放っておいて良い」
「はい・・・」
後部座席の少年の放つ雰囲気が変わったのを感じて、加持は緊張した。
「二度とくだらない遊びが出来ない様に、内側からひねり潰す」
凍てつく様な視線を車窓の外へと向けて、怒りの冷気を放ちだした少年は、いまいましげにつぶやいた。
 
 

新中央区、女子異種格闘技予選会場
 

「そろそろ一時だな」
「ああ、よし、この辺で応募者締め切りだ」
「じゃあ、あなたで最後ですよ」
受け付けの係員が、最後にやってきた黒のロングヘアーの美少女に言った。
彼女が申込書に書き込んでいるのを、何気なしに見ていた係員だったが、年齢記入の場所を見て何か引っかかる物を感じた。
「ん?16歳?あなた嘘書いてますね?困りますよ、本当の事を書いてくれないと」
「ほ、本当だもの・・・」
焦っているのか、少女の額には汗が浮き出ている。
「いいえ、私の目はごまかせませんっ、これでメシを食ってるんですから。いくらサバをよんでも18歳でしょ?」
自信ありげに胸をそらした係員の言葉を聞いて、少女の額に青筋が浮かぶ。
少女が会場へ向かった後、受け付け室には気絶した係員が、机の上に突っ伏していた。
 

黒いロングヘアー、紅い瞳を隠す為のカラーコンタクト、そして真っ赤なルージュ。
女装(?)すると何故か年食い女に見られてしまう綾波レイ君が、プリプリと怒りながら会場へと入って行くと、ちょうど何処かの財閥の奥様がこの大会の主旨についてスピーチを始めた所であった。
『―――これは決して私共の道楽ではありません。かよわい女性を狙った凶悪犯罪が多発する今だからこそ、女性が強くなる為につくられた大会です。誰かを頼るのではありません、自分で戦うのです。同じ女性として、私はあなた方に協力を惜しみません。――前途ある女性達へ・・・・共に強く生きようではありませんか!』
わあー、と会場に居並んだ大会参加者達が歓声を上げ、拍手を始める。
ただ一人、レイだけは冷たい目で肥満気味の奥さんを見ていた。
「ククク・・・安心して・・・誰も貴方なんか襲わないと思うから・・・ククク・・・」
苦労を知りませんと言った顔をして、コロコロと太ったこの女性の事が、レイは気に入らなかった。同じ金持ちでも、マヤとはえらい違いである。

そうこうしている内に予選が始まり、レイは順調に勝ち進んで行った。
男として育てられて来たレイにとって、女の子を殴ると言うのには抵抗があったが、一億円の為だと自分に言い聞かせて戦う。
それなりに手加減して打撃を与えるのだが、ついつい急所に当たったりして、担架で運ばれて行く相手選手を何人か出してしまった。
そんな相手選手に胸の中で手を合わせて謝ったレイがふと上を見てみると、さきほどスピーチをしていた肥満女性が、会場を見下ろせる場所から窓越しに予選を眺めているのが目に入った。
うすら笑いを浮かべる肥満女性を見て、レイの不快指数は一気に跳ね上がる。
なぜなら、彼女の笑いが、格闘を楽しんでいる者の顔では無く、ひとが血だらけで倒れるのを楽しんでいる様に見えたからだ。
「303番の選手の方」
うすら笑いを浮かべる女性を睨んでいたレイを、大会のレフェリーが呼んだ。
「なに?」
「次の試合が始まりますが、続けますか?」
「問題無いわ・・・・・一億だもの」
「????」
 

会場と同じ建物の中、手にチェックリストを持った何人もの黒服たちが、淡々と作業をこなして行く。
『闘場8、ナンバー303、チェック』
試合が始まって十秒も経たない内に、また相手を倒したレイが、モニターに写っていた。
薄暗い部屋には、何台ものモニターが並べられており、順調に勝ち進んでいる選手達の映像が隠しカメラから送られて来る。
『闘場4、ナンバー402、チェック・・・・・』
作業は予選が終わるまで続けられ、黒服たちのチェックリストには、優秀な女性格闘家の名前がリストアップされていた。
 
 

マヤのマンション
 

「ただいま」
「おかえりなさい」
予選から帰って来たレイを、マヤが出迎えた。予選はもちろん余裕で通り、レイは意気揚々としている。
「?・・・・ムサシとケイタは?」
「まだアルバイトから帰ってないのよ」
「そう」
借金を少しでも返す為、ムサシとケイタもバイトをしている。
学校が終わってからのバイトなので、必然的に遅くまで帰って来ない事が多い。
遅くまで頑張っているムサシとケイタに感心していたレイは、テーブルの上の二つ並んだ湯のみに気付いた。
「誰か来てたの・・・?」
「えっ、・・・あ、そう、友達・・」
レイの口元が、いやらしく歪む。
「・・・男・・・・?」
「え・・・?」
「マヤさんの彼氏?ふふふ・・二人きりで・・・ふふふ・・・」
「ち・・ちがうわっ、そんな不潔な・・・」
「顔が真っ赤よ、マヤさん」
そう言ったっきり、レイは何処かへトリップし始めてしまった。
「もしもし・・・レイちゃん?」
レイの目の前で手を振ってみたりするが、反応が全くない。一人でブツブツと何か言っては身悶えしている。
「お〜い、もしも〜し。・・・・・・あ、そうだ」
何か思い出したマヤは、レイを現実世界へと連れ戻す為に一つの箱を持ってきた。
「レイちゃん、これ、もらってくれる?」
「なに?マヤさんがくれるなら、何でももらう・・」
『もらって』の部分で、現実世界へ一瞬で戻ってきたレイが箱の中を覗き込むと、その中には奇麗だが、ちょっと派手なチャイナドレスが入っていた。
「妹がよく来てた物なの・・・」
「よく?」
箱からドレスを取り出したレイが、派手な刺繍を眺めながらつぶやく。
高価なドレスなのは一目で分かるが、まさかマヤの妹はこの派手なドレスを普段着にしていたのだろうか?
「え、変?あの子、中国マニアだったのよ・・・本当は拳法だけじゃ無くて、カンフーも習いたいって言ってたくらいで・・・・・やっぱり変?」
「いいえ、問題ないわ・・・・だって、とても気に入ったもの・・・」
ぎゅっとドレスを抱きしめるレイを見て、マヤは最高の笑顔を浮かべた。
 
 

再び、第三東京私立ネルフ学園

「い・か・り・君っ」
顔を除いた体全体で喜びを表わしながら、レイがシンジの席へとやってきた。
と、シンジが指で何かをはじくと、見事にレイの口へと侵入を果たした。
「ヒグッ・・・・ゴクン」
思わず飲み込んだレイの顔が蒼白になって行く。あわてて口を押さえたが、時すでに遅く、小さな粒状の物体は、レイのかわゆいお腹の中へと真っ逆さまに落ちて行く途中であった。
「な・・・何を飲ませたの?」
「別に・・・・一粒50万の栄養剤だよ。おいしかった?」
ボソリとつぶやくシンジの後ろで、加持がいつもの様に電卓を打つ。
「借用金加算50万だよ、レイちゃん」
「くっ・・・・着実に増えてる・・・」
どんどん増えてゆく借金に、レイはさめざめと涙を流している。
「どうせ綾波の事だから、僕をおちょくりに来たんでしょ?」
「当り前・・・・・だって、昨日は半日だれにも捕まらなかったもの。だらか碇君を馬鹿にしに来たの・・・」
ふてぶてしい態度に、シンジは頬をピクリと動かすと、先ほどレイに飲ませた錠剤をもう一つ取り出して彼女の口に突っ込もうとした。
レイはとっさにシンジの腕を掴むと、どうにかして押し返そうとする。
「きゅ、九千八百万・・・・っ」
「くっ・・・・・」
全力で押し戻そうとしたレイであったが、やはり純粋な力では男には勝てず、結局シンジに無理やり飲まされてしまった。
「今日は誰にも捕まらないわ・・・・・また明日も馬鹿にしに来てあげる・・」
あまりの悔しさに口を尖らせて涙目になったレイが、捨て台詞を残して走り去って行った。
 

「三代目・・・。先程レイちゃんに飲ませたカプセルはもしかして・・・」
「万全の対策だよ。飲んでいて毒になる事は無いからね・・・」
シンジの答えを聞いた加持は、クスリと男くさい笑いを浮かべた。
「三代目は、助けられた本人がそうと気付かない様、助けるのが上手ですね・・。レイちゃん達が屋敷から逃げ出す様にしむけた第一の理由にしても・・・」
加持は彼の方を向いたシンジを見て、それ以上言葉を続けられなかった。
冷たい冷気の様な物を首筋に感じたのだ。
「も、申し訳ありませんっっっ。二度と口にいたしません!」
「・・・・・」
平謝りに謝っている加持から目を放すと、こちらに向かってくる時田が目に入った。
「例の事で情報が入りました。昨日三代目を狙撃してきた奴が、格闘技選手権の主催者役員の名を口にしました」
「三代目、やつら思いの他まぬけですね・・・」
「・・・・」
「あとそれから、『あの男』が動きだしたそうです」
「分かった・・・綾波より先まわりする必要がある。その狙撃手をもっと締め上げてよ。そいつなら奴らが集まる場所を知ってるはずだから。まさか四年前と同じ場所は使わないだろうからね・・・・。急いで」
時田が一礼してから教室から出ていくと、シンジはだらりと垂らした右手を開いたり握ったりし始めた。 
彼の目には、焦りの色が見え隠れしている。
 
 

格闘選手権、控え室
 

マヤから貰ったチャイナドレスを着たレイを見て、控室にいた女の子達がざわめいた。
「あなた、お金持ちなのね・・・」
後ろから声をかけられたレイだったが、一瞬自分が呼ばれたと気付かず、空耳かと思った。 なぜなら、一億近くの借金があるレイは、まず金持ちと呼ばれるとは思っていなかったからだ。
「悪いけど、私達あなたみたいに遊びでここにいるんじゃ無いのよ。生活がかかってるの」
どうやら、レイに話しかけてきたショートヘアーの少女は、レイのドレスを見て何か勘違いした様だ。
よく周りを見てみると、きつい視線を送ってくる子が何人も居るのにレイは気付いた。
「私は17になる姉と、下に一人いる妹と三人で生活してるわ。姉さんは私達を養う為に毎日体を売ってお金をかせいでくれてるのっ。売春よっ!一億あれば、そんな物から姉さんを救ってあげられるのよっ!」
少女が言い終わるのと重なる様にして、控室に取り付けられたスピーカーからアナウンスが流れ始めた。
『最終予選会場へご案内します、選手の皆さんは、二階ロビーにでお集り下さい』
ぞろぞろと控室から選手達が出て行く中、ショートヘアーの少女はまだレイを睨みつけている。
「・・・・私、もしあなたと当たっても、絶対に負けないわ」
「・・・・・そう・・・」
レイは自分の一億近い借金など、どうでも良い様な気分になってきた。やはり女性が多額のお金を稼ぐ為には、体を売るしか無いのであろうか?
自分ならば、絶対にやりたくない。レイは自分を男として育ててくれた父と母に感謝した。
それにレイがこんなで無かったら、必ずシンジに売り飛ばされていた事であろう。実際、この間は変態おやじの所へ売り飛ばされかけたではないか。
 

ぶつぶつとつぶやきながら、会場へと続く廊下を歩いていたレイは、この間見かけた肥満気味のマダムが、男を談笑しながらVIPルームへと入って行くのを見た。
「あ、あの男は・・・・・・日崎!」
日崎とは、かねてから八島組をライバル視していて、関東一の座を奪う為にレイの両親とシンジの父親を殺した男である。
その男が何故ここに居るのであろうか?
未来のスーパーポリス(自称)であるレイのカンが、裏で何かあると告げていた。
何か聞こえるかもしれないとドアに耳を当ててみたが、残念ながら防音システムが作動してるドアの内側からは何も聞こえてこない。
「何をしてるんですか?」
「ひっくぃっ!」
通りかかった係員に呼びかけられたレイは、素頓狂な声を上げて飛び上がった。
「便・・・お手洗いに行ってたら、みんなとはぐれてしまったの・・・見つけてくれてよかったわ」
「・・・・選手の方ですか?こちらですよ」
日崎とあの女の会話が気になるレイであったが、事を荒立てるのはマズイと思い直して素直に係員の後をついて行く。
そして連れてこられたのが、ドアが無数に並んでいる廊下であった。
「・・・ここ?」
「はい、最終予選会場です。どれか好きなドアを選んで下さい。他の皆さんにもそうしてもらいました」
このドアが何処かへ繋がっていて、それで対戦相手が決まるのであろうか?
あまり気乗りしないレイであったが、ここまで来て引き返す事は出来ない。
意を決してレイはドアの横にあるボタンを押した。 あの少女が自分の対戦相手で無い事を祈りながら。
 

バシュッと言う音を立てて油圧式のドアが開くと、予想に反して一人の男がテーブルの前に腰掛けていた。
「ああ、ようこそ。どうぞこちらへかけて下さい」
「?」
レイが男の反対側に腰掛けると、男はにこりと微笑んだ。
「いやー、似合いますね、チャイナドレス。御自分で買われたんですか?」
「え?・・・あ、これはある人の形見。・・・・・似合う?」
見ず知らずの人からとは言え、お気に入りの服が似合うと言われて嬉しく無い訳が無い。
思わずニヤリと口元を歪めてしまったレイは、ヘラヘラしていて良い時では無いと思い直して、いつもの無表情へと戻した。
「実は、最終決戦の前にはこの格闘技選手権について、アンケート兼と言う事で二、三 カウンセリングする事になってるんです。もしよろしければ、聞かせてもらえませんか?」
「いいわ」
「では始めに、近ごろなにか悩み事はありますか?例えば生活に関わる事とか・・・」
「どうしてそんな事を聞くの?」
レイの生活など、格闘技とは何の関係も無いはずである。あえてそんな事を聞くのは、裏に何かあるのかもしれない。
「この格闘選手権が行われる様になった理由はご存じだと思いますが・・・」
「・・道端で犯されない女をつくる為・・・」
ストレートに言うレイに、男が苦笑した。
「・・まあ、早い話しがそうなんですが、もう一つは優勝賞金に意味があります。貧富の差がありすぎる今、同じ人間でありがなら、この差で恵まれない人がいると言う事が心苦しいと言う人達の集まりで作られた選手権なので、賞金は絶大です。いえ、すばらしい格闘を見せてもらった報酬と言った方が適切かもしれません」
話しを聞けば聞くほど、きな臭くなってきた格闘技選手権にレイは眉をひそめた。
日崎が関わっているなら、なおさら裏が見てみたい。レイはあえてハマって見る事にした。危なくなった時は、自分で切り抜けるだけの自信はある。
「両親が殺されて、残された私達には九千八百万の借金があるわ」
「・・・・合格」
男は何かのリモコンを取り出すと、赤いボタンを押した。
すると座っていた椅子から出てきたガスが、レイの顔に吹きかけられる。
「な・・・・」
強烈な眠気に襲われたレイは、ズルリと椅子から滑り落ちた。
薄れ行く意識の中、男の声が聞こえる。
「九千八百万のハシタ金などすぐに返せる。そして君の兄弟も幸せになれるさ。そう・・君の命と引き替えにね・・・・」
 

後編へと続く・・・・

戻る