エヴァンゲリオン戦記
Chapter 0:プロローグ
ジオフロントは、北に超大国ゼーレ、西にサクレッド山脈、そして東と南を海に囲まれた
大国ネルフの首都である。
ネルフはまだ建国されてから間もない国であるが、国王の優れた執政の元、急速な成長を見せていた。
そんな国の首都であるジオフロントは活気に溢れている。
夏の刺すような日差しの中、一人の少年が馬車から下り立った。
年は14〜5才だろうか、細身で華奢な体つきはまるで女の子のようだ。
頼りなげに見える少年だが、月日がやがて彼を大人のたくましい体に変えて行くだろう。
「たしか迎えの人が来るはずだけど」
少年は辺りを見回してみるが、それらしき人物は見当たらない。
彼の前を、飴を持った子供が母親と一緒に笑いながら通って行った。
彼が今立っているのは、ジオフロントの南にあるマーケットだ。
あたりには沢山の屋台が並んでいて、どの屋台にも様々な食品や生活用品が所狭しと並べてある。
「わ〜、さすが首都ジオフロントだな」
しばらくその場で迎えを待っていた少年だったが、やがて暇を持て余して、もの珍しそうにそれらの屋台を回って暇潰しを始めた。
首都を訪れるのが始めての少年にとって、、見るもの聞くもの全てが珍しかった。
「よっ!兄ちゃん、なんか買ってくかい?」
屋台の果物を眺めていた少年に、その屋台のオヤジが声を掛けた。
「え、ええと、あ、そのバノバノの実下さい」
「あいよっ、3ジルだよ」
「有難う」
バノバノの実は、ネルフ全土で収穫できる果物で、大人の拳を一回り大きくしたぐらいの大きさだ。
甘い果汁をふんだんに含んでおり、かじると何とも言えぬ良い香りが口の中に広がるので、ここネルフではもっとも人気がある果物である。
少年がバノバノの実にかじりついた時、マーケットに猛スピードで向かってくる騎馬の一団が彼の視界に入った。
黒馬に跨った隊長らしき騎士は、少年の前で止まると、ヒラリと馬から飛び降りて彼の前に跪いた。
「シンジ様でございますね?」
騎士がそう少年に聞き、兜を脱ぐと、そこから絹のような紫がかった長い黒髪が滑り出て来た。
驚いた事に、跪いた状態で少年を見上げた顔は、とても美しい女性の物だった。
「え?ぼ、僕の名前は確かにシンジですけど、もしかして貴女がミサトさんですか?」
「はい、シルバーファング隊隊長ミサト・カツラギでございます、約束の刻限に遅れて大変申し訳ございませんでした。どうかお許しのほどを」
女騎士は微笑むと、今度は申し訳なさそうな顔をして言った。
シンジは用意された馬に乗ってミサトの後ろを付いて走りながら、十日前に死んだ母の言葉を思い出していた。
病床にあった母ユイは息を引き取る前、シンジを呼ぶと大切にしていた銀杏の葉の彫刻の施されている指輪をシンジに手渡した。
「シンジ、お父様から手紙が届いたわ。貴方にジオフロントに来て欲しいそうよ」
父は騎士で、ある戦いで死んだと小さな頃から聞かされていたシンジは、突然の母の言葉に困惑しきってしまった。
「母さん、父さんは死んだんじゃないの?」
「御免なさいシンジ、貴方のお父様は生きていらっしゃるわ。」
「何故、何故今まで黙っていたのさ! それにいきなり来いだなんて勝手すぎるよ!」
混乱したシンジは怒りを隠せず、つい病気の母に怒鳴ってしまった。
「貴方はジオフロントへ行って自分でその答えを見つけて来なさい。私が言えるのはこれだけよ。シンジ、強く生きなさい。」
ユイは優しい目でシンジにそう言うと、まるで眠る様に息を引き取った。
「シンジ様、シンジ様!もうすぐセントラ城です。」
はっとして前を見てみると、高い城壁に守られた城が見えた。
「あそこに父が居るのですか、カツラギさん?」
「はい、シンジ様のご到着をこころまちにしてらっしゃいます。」
シンジはふと疑問に思うことがあった。 父がミサトより位の高い騎士だろうと言うのは分かるが、どうしてミサトはシンジの事を「様」をつけて呼ぶのだろうか?
そして、迎えを出すなら多くても二、三人でいいはずなのに、ミサトについてきた騎士の数は二十人はいる。
ひょっとしたら父は親馬鹿なのでは、などと考えてみたが、母と自分をほっておいた父がそんな事をする訳がないと混乱してしまった。
「カツラギさん。」
「ミサト、でよろしいですよ。」
ミサトはニコリと笑うと、馬の走る速度をおとしてシンジの横に並んだ。
「それじゃ、あの、ミサトさん。 父は一体どんな仕事をしているんですか?」
何故か頬を赤くしてシンジが聞くと、
「お父上は畏れ多くもネルフの国王陛下であらせられます。」
シンジがどんな顔をするか好奇心をその美しい顔にうかべてミサトは言った。
『は??』
そう言ったシンジの顔は恐らく彼の十四年間の人生の中で一番まぬけな顔だっただろう。
to be continued