遥か遠い昔、この世には魔法の力が溢れていた。
争いの無い世界・・・・・。
人々は発達した魔法の力で生活し、幸せな日々を送っていた。
しかし幸せな日々は、ある日突然消え去る事になる。
一握りの人間が異世界の存在を発見し、そしてその世界への扉を開いたのだ。
世界は扉(ゲート)から飛び出した「魔神」達によって地獄へと変えられてしまう。
強靭な肉体と、圧倒的な魔力を持った魔神達によって幾つもの国々が滅ぼされた。

人間達も無抵抗だった訳では無い。
人の魔力の源である「コア」を体から取り出し、数々の武器、防具を造り出したのだ。
「コア」を取り出した人間は、魔法の力が使えなくなってしまうが、人々に選択の余地は無かったのだろう。
百年に渡る戦いの末、「コア」を失った人間達は、魔力と引き替えに勝利を手にした。
勇者達によって扉(ゲート)は閉じられ、魔神たちは世界から駆逐されたのだ。

後の世に残されたこれらの武器、防具は「エヴァンゲリオン」と呼ばれ、数々の勇者達の手に渡って行く事となる。







エヴァンゲリオン戦記

Chapter 6:追う者、追われる者









ネルフ首都ジ・オフロントを目指し、行軍中のゼーレ軍。
真夏の空の下、腐敗し始めた生首を眺める女がいた。
爽やかな風に乗って漂って来た腐敗臭に顔をしかめる。
「あれは王太子の首では無いわ」
夏の日差しの下でアサシンの証である黒装束を着るわけにも行かず、魅力的な褐色の肌を太陽の光にさらしながらシャムシエルはつぶやいた。
彼女は知っていた。
ネルフ軍の士気を下げる為に、行軍するゼーレ軍の先頭に吊されたネルフ王太子の首が別人の物であると。
なぜなら、彼女は王太子の顔を見たゼーレ軍で唯一人の人間だからだ。
夜だったとは言え、彼女らアサシンは暗闇の中でも真昼のように物が見えるのだ。
「生きているなら私が必ず殺してあげるわ。ふふふ、あの女騎士の悔しそうな顔が早く見たい物ね」
シャムシエルはゼーレ軍にこの事を報告する気は全然無い。
あの少年と女騎士は彼女の獲物なのだから。
それに、せっかく敵の王太子をしとめたと思い込んでゼーレ軍の士気が上がっているのに、わざわざそれをぶち壊す事も無いだろう。
彼女は腐敗し始めた生首を一瞥すると、ゼーレの隊列から少数の部下を引きつれて離れて行った。




「ふぁぁぁ〜〜〜あ。さて、まずは何処から探そうかしら」
誰も見ていない事をいいことに、綺麗な口を最大限まで開けてあくびをした美女がつぶやいた。
彼女は今、ネルフが屈辱的な敗北を味わったセレン平原に来ていた。
辺りには遺棄された死体から立ち上る腐敗臭が漂っている。
そして、それにつられて集まって来た野良犬や鳥達が、死体を突ついたり、食いちぎったりしている。
慣れているのか、それとも感覚がマヒしているのか、彼女はその光景を前にしても平然としている。
さすがに何万も転がっている死体の中に、王太子が居ないか一つ一つ調べる気にはならない。
大体、日の下に何日も放っておかれた死体には、腐敗して顔の判別さえ出来ない物や、首から上が無くなっている物などあって、この中から人を一人探し出すのは不可能だろう。
鎧は着けず、腰に愛用の剣をぶら下げただけのミサトは、彼女の愛馬の上で戦いの時以外にはあまり使わない頭を抱えて、シンジが何処を目指すか考えて見た。
「やっぱり東か西ね。首都を目指すとゼーレの進軍方向と同じだから危険だし、北に向かうと、これまた後から来たゼーレの援軍に遭遇する危険があるから。 と、言うことは東か西で一番近い村か町かに必ず立ちよっているはず・・・」
馬上で地図を広げると、一番近い村を探して見る。
「一番近い村は・・・っと、此処ね」
ミサトの地図には西に十五キロの所に小さな村があるのが記されていた。
「さて、シンジ殿下は私の教えたサバイバル術を覚えているかしら?」
華麗な手綱さばきで愛馬の頭を西へ向けると、ミサトはセレン平原を後にした。


十五キロほど馬を走らせると、小さな村が見えて来た。
村の中央には小さな広場があって、樹齢百年は越えるだろうと思われる大きな木が立っている。
町にはあまり人影が無く、何軒かの人家の家の前には馬車が止められており、住民が家具などを積み込んでいる。
恐らくネルフ軍が敗北したのを聞いて、南のジオフロントの方へ逃げるのだろう。
人々の記憶には、十六年前の悪夢がまだ鮮明に焼き付いていて離れない。
十六年前、ネルフに侵攻したゼーレは、占領した町や村で悪逆非道な行為をはたらいた。
彼等はネルフの国民をまるで家畜の様に扱い、面白半分に引っぱって来た人間の鼻や耳を削ぎ落としたり、死ぬまで拷問にかけたりした。
ある若い女性は彼女の婚約者の前で強姦され、ある母親は目の前で赤ん坊の目をえぐり取られて発狂した。
結局、ゲンドウがゼーレを国土から追い出すまでの一年間、彼等は地獄の様な日々を送らなければならなかったのだ。
このような忌まわしい記憶が、彼等に生まれ育った土地を捨ててまで逃げる決断をさせたのだろう。
情報収集の為、ミサトは広場の木に愛馬をつなぐと、足を酒場に向けた。
いつの時代でも、酒場には自然と情報が集まってくるのだ。


ミサトが『山猫亭』と看板に書いてある酒場へ入ると、まだ日が沈んでもいないと言うのに、何人もの男達がカウンターにたむろしていた。
沢山の人間が村から出て行ったせいで、さすがに人数は少なかったが、それでも必要な情報は得られそうだったので、ミサトはカウンターへ行くと『エビチュ』と呼ばれるネルフ特産のビールを頼んだ。
男達は目の覚める様な美人が酒場へ入って来たのを見て、案の定声を掛けてきた。
「あんた、見かけない顔だね。あんたみたいな美人がこんな小さな村に何しに来たんだい?」
ミサトと同年代だろうか?どこの酒場にも居そうな筋肉の塊のような男がミサトの隣へ腰掛けると、馴れ馴れしく彼女の肩に腕を回しながら言った。
「ちょっち探してる人が居るの。」
「へー、一体誰だいそいつは?」
男はいやらしい視線をミサトの胸元に向けながら、ミサトのシルクの様な髪を撫でつけた。
「少しひょろっとしていて、顔つきは女の子っぽい十四、五歳の男の子よ」
「ああ、ついこの間まで宿に泊まってた子だな、そりゃ」
「知ってるの!?」
平静を保とうとしていたミサトだったが、有力な情報を聞いて声を荒げてしまった。
「ああ、もちろん知ってるとも」
「この村を出て何処へ向かったかは分かる?」
「う〜ん、ちょっとそこまでは思い出せないな〜。もっとも、あんたが一晩俺の相手をしてくれたら思い出すかもしれねーがな」
そう言って男は髪を撫でていた手を下ろすと、ミサトの尻を撫で回し始めた。
「・・・スが」
「うん?何だって?」
「このゲス野郎がー!!」
ミサトは男の手をはねのけると、その手をつかんでカウンターの上に置き、腰に差してあったナイフを引き抜くと上から突き刺した。
「うぎゃーーーっ!!手、手がーーーっ!!」
ゲス男の手は、見事にカウンターの上に縫いつけられていた。
「ふんっ!良いザマね。レディーに対して失礼な事をするからよ。私を怒らせるとは馬鹿な奴ね」
酒場の中に居た人間は、突然の事に皆呆然としている。
「さあ、男の子が何処へ向かったか言いなさい。それとも、もう片方の手も縫いつけて欲しいのかしら?」
ミサトは冷たい声で言ったが、男の方はそれどころでは無いようだ。
「俺の手がー!ううう、ぐう、痛てーっ。」
「私の質問に答えなさい。」
カウンターの上にひらりと飛び乗ると、男を見下ろして彼の手に着き刺さったナイフを踏みつける。
「ぎゃあああー、や、やめてくれ、言う、言うから御願いだ。」
「早くしてね、私は気が短いの」
何かの見返りに体を求めるような男に対して、彼女の態度は冷ややかだった。
彼女の知っている、いつも無精髭を生やした男なら、絶対にそんな無粋な真似はしないだろう。
もっとも、その男の場合はミサトの恐ろしさを熟知しているだけかもしれないが。
「ううう、その子なら何日か前に西のサクレッド山脈の方へ行った。若い男二人とそれから女の子一人を連れて・・・。た、頼む、足をのけてくれ」
男が泣きながら話すと、ミサトは彼の手から愛用のナイフを引き抜いて、酒屋の主人に金貨一枚を投げた。
「騒がせたわね」
そのまま酒場から出て行こうとしたミサトだったが、何か思い出した様にカウンターに戻ると、少しぬるくなった『エビチュ』を信じられない様なスピードで一気に飲み干した。
「お、お見事」
呆気にとられていた酒場の主人が思わずつぶやいた。


外へ出たミサトの顔は実に生き生きとした物だった。
彼女は確信したのだ。王太子が生きていると。
人の目が無ければ、その場で踊り出していたかもしれない。
どうして彼がサクレッド山脈へ向かったのかは分からないが、何か理由があるのだろう。
彼女は広場に繋いで置いた愛馬に跨ると、サクレッド山脈の方角へ向けて馬を走らせた。





王太子を狙う者、そして保護しようとする者。
彼女らの運命の歯車を回した人物は、ネルフとリリスの国境、サクレッド山脈を越えようとしていた。
「後もう少しでリリス領に入るよ」
もうほとんど怪我の治ったネオが、後ろの仲間達に声を掛けた。
「なら、ちょっと休まない?」
一日中山を歩いてヘトヘトになったマナが、もう歩くのは嫌だとでも言いたげに道の横の岩に腰を下ろした。
ムサシとケイタも同感の様で、それぞれ別の岩に腰掛けている。
「駄目だよマナ。日が暮れる前にもう少し先へ進まないと、明日中に山脈を越えられないよ」
ネオが地図を覗き込みながら言った。
怪我が治ったばかりだと言うのに、彼は他の仲間の荷物まで背中に担いでいる。
もっとも、そのほとんどはマナの物だったが。
「お前は化け物か?その細い体の何処にそんなスタミナがあるんだ?」
一向に疲れた様子の無いネオに向かってムサシが言った。
体力のあまり無いケイタなど、疲れすぎて声も出ないくらいだ。
「仕方無い。じゃ、今日はこの辺で野宿しようか?」
ネオは背中に背負っていた荷物を足元に下ろすと、辺りに落ちている手ごろな大きさの石を集め出した。
それを円状に並べると、今度は薪になりそうな木を集める。 どうやら焚き火の準備をしているらしい。
この旅が始まってから、毎日そうして来たのだろうか、彼はテキパキと作業をこなして行く。
「ほらっ! 少しはネオを手伝ったらどうなの?」
少し離れた所に腰を下ろしているムサシを、マナが殺気を込めた目で睨みつけた。
「ふん! どうして俺が下僕の手伝いをしなくちゃならんのだ?」
「誰が下僕よ、誰が!」
「あそこで薪集めをしてる奴だ」
ムサシが胸をそらして、さも当然だと言った表情を浮かべた。
「ネオは下僕なんかじゃ無いわ。私の未来の、だ、旦那様よ」
言っていて恥ずかしかったのか、マナの耳が真っ赤になった。
「何をたわけた事を言ってるんだマナ、兄は許さんぞ!!」
「へ〜。許さなかったらどうするって言うのかな?」
指をポキポキ鳴らしながら、自分に近づいて来るマナを見て、ムサシの表情が凍り付いた。


薪を集め終わって帰ってきたネオが見た物は、二人を止めようとしてノックダウンされたケイタと、ひっかき傷だらけのムサシの顔、そしてそのムサシの背中で仁王立ちしているマナだった。



そんな一行を、崖の上から見下ろす幾つかの人影があった。
この山道を通る旅人たちを襲って生活している山賊たちだ。
「おい、見てみろ。カモだぜ」
いやらしい笑みを浮かべて、一人の山賊が隣の男に話しかけた。
「ああ。女が一匹と男が三匹・・・、なんだ、みんなガキじゃねーか」
隣の貫禄のある男が、ガケの下で野宿の準備をしているネオ達が子供なのに気付いて、少し落胆した様な表情を浮かべた。
「けどよ、あの女の方はどっかへ行って売りゃあ良い金になると思うぜ」
「そうだな、あまり金は持って無さそうだが、久々のカモだからな、やるか」
リーダーらしい貫禄のある男が合図の口笛をふくと、岩陰から十数人の山賊たちが姿をあらわした。
「女は殺すな、少し味見をしてから売りに行くからな。男の方は殺してかまわん。さあ、やれ!」
リーダーが言うと、仲間の山賊たちは奇声を上げながら坂を走り降りて行った。


最初に山賊達に気付いたのはムサシだった。
見るからに「俺達は山賊だ」と言いたげなボロボロの服を着て、手に色々な武器を持った集団が山の斜面を駆け降りて来るのが見えたのだ。
「マナ!ケイタ!そんでもってついでにネオ!!お客さんだ!!」
そう叫んだムサシの両手には、すでに二本の剣が握られていた。
それを聞いたマナとケイタは、さすがに傭兵を名乗るだけあって、落ち着いた様子でそれぞれの武器を取りに自分の荷物の方へ走って行く。
「ネオ、これを使え。」
ムサシが二つ持っている剣の一本を投げると、ネオは空中でそれを掴んで構えを取った。
その流れる様な動作に、ムサシはネオが正規の訓練を受けた兵士だと言う事に気付いたが、そんな事を考えて居る暇は無いと思いなおして、近づいてくる山賊たちの方へ向き直った。
山賊たちは十数人で、子供だと思ってなめているのだろうか、包囲はしないでばらばらに近づいて来た。
「へへへ、あり金全部とそっちの嬢ちゃんを置いて行きな。そうすれば命だけは助けてやってもいいぜ。」
短槍を持った山賊が、髭だらけの顔を前に突き出して言った。
酷く醜くて、正視しがたい顔だ。
「なんだ、山賊のお決まりの台詞じゃないか。無い脳味噌を絞ってもっとましな台詞を考えて来いよ」
「てめぇ、俺を侮辱してるのかっ!?」
「やっぱり頭わりぃな」
ムサシが思いっきり挑発的な顔で山賊に言うと、案の定その山賊は顔を真っ赤にしてムサシに向かって突進してきた。
他の山賊達も、短槍の山賊にの後に続いて奇声を発しながらムサシ達に向かって来る。
「ぎゃーーーっ!!」
ムサシに向かって突進してきた短槍の男が、突然もんどりうって後ろに倒れた。
彼の右目には、ケイタがムサシの後ろから放った矢が突き立っている。
悲運な短槍の男が倒れても、仲間思いな山賊はおらず、他の山賊たちは倒れた男を気にせず突っ込んで来た。


たちまち辺りは敵味方入り乱れた乱戦に突入した。
ムサシは憮然と剣を振るい、マナは燕の様に身軽なステップで細身の剣を踊らせ、ケイタは冷静に山賊との距離をとって近矢を放つ。
あっと言う間に三人の盗賊達が戦闘不能に陥ってしまった。
一人の盗賊がネオに狙いをつけてブロードソードを振りかぶると、ネオの頭へめがけて打ち下ろした。
積極的に戦闘に加わろうとしないネオを見て、彼を倒すのが一番簡単だと思ったのだろう。
しかし、彼の打ち下ろしたブロードソードは宙を斬り、盗賊は胸に激痛を感じた。
ネオは盗賊の剣撃を半身ずらして紙一重でかわし、ムサシから借りた剣を盗賊の心臓へ突き刺したのだった。
子供だと思ってなめて掛かった山賊たちは、四人目の胸がネオの剣で貫かれたのを見て、この子供達がただ者では無い事にやっと気付いた。
しかし此処に居合わせた人間の中で一番驚きを覚えたのは、たった今自分に向かって来た山賊の胸を剣で突き刺したネオだった。
「か、体が勝手に反応した・・・」
驚くネオを尻目に、盗賊達はバラバラに攻撃するのを止め、いったん距離を取ってから、ネオ達を包囲するような動きを見せ始める。
「おい!何をボーっとしてんだ!?やつら本気になったらしいぜ」
ムサシが呆然としているネオに声を掛けるのと同時に、盗賊達は包囲を完成させて、その輪を縮めるように襲い掛かって来た。


二時間とも、三時間とも思えた五分間の激しい戦闘の後、盗賊達は七つの死体を残して逃げ帰って行った。
不幸な盗賊達は何も手に入れる事が出来ず、しかもたった四人の子供にこっぴどくやられたのだった。
しかしネオ達も無傷では無かった。 ムサシは体の数ヵ所に切り傷があったし、ケイタは太股に盗賊の放った矢が刺さっていた。
あのまま消耗戦にもつれこんでいたら、負けていたのは彼等だっただろう。
ムサシとケイタの手当をしていたマナはふと手を止めると、盗賊の死体を虚ろな表情で眺めているネオを見た。
「いてててて、マナ、よそ見してないでちゃんと包帯を巻いてくれよ。」
ムサシの主張を無視したマナは、包帯から手を放すとネオに近づいて行った。
「あ、ああっ!せっかくここまで巻けたのに・・。」
巻いている途中で放したお陰で解けてしまった包帯を見てムサシは嘆いたが、マナは気にせずにネオの隣に立って彼に話しかけた。
「どうしたの?」
「え?あ、あ、うん、ただちょっと自分が一体誰なのか不安になっちゃってね。」
「不安?」
「うん・・・。はっきり言って人を殺したのはショックだった。でもあの時、僕の体はどうやれば人が殺せるか知っていた様に無意識に動いていたんだ。だから僕は記憶を失うずっと前から人殺しをしてきたのかも知れないって思ったら、急に自分が何者なのか不安になたんだ。」
「そう・・・、でも、貴方が殺さなかったら貴方が殺されてわ。それに、貴方が誰だろうと私は気にしない。貴方が盗賊だったとしても、殺人狂だったとしても、貴方は貴方だもん。」
「ありがとう。」
そう言って寂しそうな顔で微笑むネオを見て、マナの胸は締め付けられる様に痛くなった。それは甘く、そして苦い痛みだった。
果たしてそれはせつない恋心から来る物だったのだろうか?
それとも・・・・・。

複雑な感情を持て余している少女を落日の光が照らしていた。





to be continued


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