エヴァンゲリオン戦記

Chapter 8:たった一人の援軍







ジオフロント、セントラ城


日に日に悪化して行く戦況は、ジオフロントまで伝わっており、その原因が同盟を誓ったリリスの援軍が来ない事にあると言うので、城で夫と義父の帰りを待っているレイの立場はかなり悪くなっていた。
廊下を歩いていると、レイを見て露骨に嫌な顔をする人もいる。
この日は伝令が来て、いよいよアイアス城が陥落すると言う報告をして行った。その報告を聞いた時は、彼女の周りにいた全員が彼女を睨みつけた。
何を言っても無駄だと分かっているレイは、彼等に何も言わなかったが、ある一つの決心をしていた。
「シゲル・ブルーリーフを呼びなさい」
部屋に戻ったレイが、本国から連れてきた侍女に城の防戦指揮を任されている男を呼びに行く様に言い、しばらくすると、ドアをノックして一人の男がレイの私室へ入って来た。
「失礼いたします。レイ様、お呼びでしょうか?」
シゲルがレイの前にひざまづいた。
シゲル・ブルーリーフは地味ではあるが、ねばりのある用兵が得意なネルフの武将である。彼は肩までその黒髪を伸ばしており、宮廷の婦人たちにはかなりの人気があるらしい。また、彼の祖母がリリス人なので、この城の中では数少ないレイに好意的な人間の一人であった。
「良く来てくれました、貴方を此処へ呼んだのは他でもありません、貴方に義勇軍を募集して欲しいのです」
「義勇軍?」
「そうです。アイアス城へ送るれる援軍は無く、温存してある兵力もこの国にはもうありません。と言う事は、アイアス城での戦いが最後の戦いになるでしょう。そして、恐らくネルフは勝てません。何故なら私の愚かな父が援軍を送って来ないから・・」
「レイ様・・・」
「ゼーレの支配はかなり苦しい物になるはず・・・、そしてそれは誰よりも国民が良く知っています。義勇軍を募集すれば、必ず国民は立ち上がってくれるでしょう」
「なるほど・・・。しかし、彼等を援軍として送るのでしたら、それを率いる将軍が必要です。訓練度の低い軍をまとめられて、しかも敵に勝てる様な将軍が・・・。私に期待しているのでしたら、ご勘弁下さい。非才な身には荷が重すぎます」
シゲルは防戦指揮を任されていると行っても、せいぜい二千ほどの兵しか動かした事が無かった。義勇軍を募るとなると、その数は一万を超える事になるだろう。動かす兵の数が増えれば増えるほど、それを指揮する将軍の腕は良く無ければならない。それに加えて、民間人の集まりである義勇軍の被害を最小に押さえるなど、自分には到底出来ないと思ったのだ。
「将軍でしたら此処に居ます」
「は?」
「私が義勇軍を率いましょう」
「レイ様が・・・?」
「これでもリリスでは騎士に任じられていました。この国に来る前は一万ほどの軍を率いて山族と戦った事もあります」
「それは・・・・。分かりました、ではさっそく義勇軍を募集いたしましょう」
「お願いします」
シゲルは一礼すると、肩まで伸ばした黒髪をなびかせて部屋から出て行った。

レイはシゲルが出て行ったあと、身にまとっていたドレスを脱ぎ、リリスから持って来ていた鎧に着替え始めた。女性用に軽量化してある鎧をフル装備した後、腰の神剣タナトスを引き抜いて、胸の部分に付いていたリリスの紋章をはじき落とした。
「ネルフの紋章(シール)を持って来なさい」
いきなり鎧を着始めたレイを見て呆然としていた侍女達は、レイに命令されて飛び上がる様に部屋から出て行った。
侍女達が戻って来ると、何故か一人増えている。良く見てみると、シンジの世話をしていたジーナが居た。
「レイ様、これをお使い下さいませ」
ジーナが手を差し出すと、そこには見事な装飾が施されている王家の紋章が乗っていた。
「これは?」
「これはシンジ様の物でございます」
「あの人の?」
「はい。レイ様の侍女からレイ様が鎧に着替えられていると聞いて、シンジ様のお部屋から持ってまいりました。これをお使い下さいませ」
「でも、これは殿下の物、私が使う訳には行きません」
「レイ様、あなた様は殿下の奥方、立派にネルフの王家の一員でございます。それに殿下はレイ様がこれをお使いになっても、決してお怒りになるはずがございません」
「ジーナ・・・・ありがとう、ありがたく受け取らせて頂きます」
レイは感謝を込めて、紋章の乗ったジーナの手を自分の両手で包みこんだ。





リリス王国、首都メルクリウスから少し南


馬に乗った一団が、全力で森の中を駆け抜けていた。
「はあっ、はあっ、はあっ、王子っ!!追っ手が、もうすぐそこまで来ています」
「分かっているよ。父上か、それともゼーレに雇われた連中だろう」
リリス人の少年は、全力で走る馬の上からちらりと後ろを振り返って、彼を追う一団を確認した。布で顔を隠した十五人ほどの暗殺者たちが、すぐそこまで迫っている。
「どうやら、本気で僕が邪魔になったらしい。愚かな・・・、今は戦争を回避出来ても、事実上ゼーレの属国になってしまうと言う事が分からないとは・・・」
暗殺者の一人が馬上で矢とつがえると、それを少年に向けて放った。その矢は少年にこそ当たらなかった物の、彼の乗っている馬の首筋に命中した。
ヒヒ〜ンと馬がいなないて横向きに倒れる。 少年も投げ出され、地面に叩き付けられた。
「王子!!!」
少年と共に逃げていた五人ほどの仲間達が、少年が投げ出されたのを見て馬を止めた。
「くうぅっ!!これまでか・・・・」
背中をしたたかに打ちつけたせいで息がうまく出来ないが、少年は立ち上がると腰にさしてあった剣を抜いた。彼の仲間も馬を下りて、かばう様に彼の周りに立つ。
すでに彼等は暗殺者たちに囲まれており、逃げ場は無くなっていた。
「王子、私達が突破口を開きます。そこからお逃げ下さい」
「お前達を置いて行く訳には行かない、僕も残って戦う」
悲痛な表情で答えた少年には、どうやってもこの危機から脱出出来ない事が分かっていたのだ。
少年とその仲間達が覚悟を決めた時、何処からともなく一本の矢が飛んで来て、取り囲んでいた暗殺者の首に突き刺さった。矢尻が首の反対側から突き出て、そこから笛を鳴らす様な音と共に、赤い液体が噴き出す。
「何!?」
暗殺者達に動揺が走る。少年の仲間がまだ辺りに居ると思ったのだ。
「大勢で少数を囲むなんて、騎士道に反するぞ」
木の陰から、四人の人影が現われた。その内の一人の手には弓がにぎられている。
「助太刀するわ」
一人の女の子が前に進み出て言うと、四人が一斉に剣を抜いて暗殺者たちに襲い掛かる。
「ありがたい」
少年は短く感謝の言葉を口にすると、自らも暗殺者の一人に切り掛かる。それを見て少年の仲間達も思い思いの敵を選んで突撃を掛けた。
勝利を確信していた暗殺者たちは、思いがけない邪魔に浮き足立ち、しかも包囲の内と外からはさみ撃ちに合う。数の上ではまだ優位に立っていたが、後から現われた四人の戦闘力が以外に強く、しかも自分たちが狙っていた少年もかなり剣が使える事を知って、この仕事を引き受けた事を後悔し始めていた。


終わってみるとあっけなく、短い草の生えた地面には、十七の死体が横たわっている。 十七体の内、二人は少年の仲間だった。 彼ら二人は暗殺者(アサシン)の毒が塗られた剣で切られてしまったのだ。
「助かったよ、もう駄目かと思ったからね」
仲間の遺体に祈りを捧げた後、リリス人の少年が振り向いて助けに入った四人に言った。
「いえ、気にしないで下さい。それより、見たところ彼等は暗殺者ですが、誰かに命を狙われているのですか?」
リリス人の少年と同年代らしい、中性的な顔立ちをした少年が聞いた。
「父が僕を邪魔者あつかいしていてねぇ、こうやって僕を亡き者にしようとしたらしい」
「お父さんが?」
「そう、リリスの愚王、フランセス二世がね」
「リリス国王!?じゃ、じゃあ、君は王子なの???」
「そう言う事になるねぇ。僕の名前はカヲル、リリス王国の王位継承権第一位の王子さ。君の名前は?」
「ぼ、僕はネオ」
「ネオか・・・。『新しい』と言う意味の名前だね。僕の事はカヲルで良いよ、よろしく」
カヲルはにこりと笑ってネオに握手を求めた。
「じゃ、じゃあ僕もネオで良いよ、よろしく」
何故かネオは顔を赤くして差し出された手を握った。
これが後に『流星王』と呼ばれる事になるリリスの若き王子カヲルと、『英雄王(後の神聖ネルフ帝国皇帝)』との最初の出会いであった。


「あ〜っ!ネオっ!!何顔を赤くしてるのよっ!」
ネオの隣でそれを見ていたマナが、歴史的瞬間をぶち壊す様な大声を上げてネオの腕にしがみつくと、カヲルを睨みつけた。
「おやおや、どうやら彼女には嫌われてしまった様だねぇ」
カヲルが苦笑する。
「ところで君達はこれから何処へ行くんだい?」
「俺達はこれからメルクリウスに言って傭兵として雇ってもらうつもりさ。実は三日ほど前にも行ったんだが、断わられちまったんだ」
カヲルに答えたムサシは、その時の事を思い出したのか、怒りの為に顔を真っ赤にした。
「傭兵?君達は傭兵なのかい?」
「ええ、そうよ」
「なるほど、君達ほどの腕なら納得出来るね。それなら一つ僕のお願いを聞いてくれないかい?」
「お願い?」
「僕と一緒に戦ってくれないかな?もちろん、報酬は十分に出すよ」
「え?雇ってくれるの!?きゃはっ!やった〜っ!」
マナがはしゃいで、ネオの腕を抱えたままピョンピョンと飛び跳ねた。その度に彼女の胸が押し付けられてネオは硬直している。
「くくくっ、君達は面白いね。でも、これだけは言って置くけど、僕が戦う相手は僕の父だよ」
「「「「!!!!?」」」」
それを聞いてネオたち四人の目が驚きに見開かれた。
「王子・・・、言ってしまって良いのですか?」
極秘にしていた計画を今日会ったばかりの人間に喋りだしたので、カヲルの仲間、いや、部下達が止める。
「大丈夫さ。彼等が来なかったら僕たちは死んでいた。それに事ここに至ったんだから、隠していても仕方が無い。あちらが僕を消そうとするなら、こちらもそれ相応の対応をさせてもらう。そう、僕は兵を挙げて父を討つ!!」
カヲルが決意を込めた目で部下に言うと、部下の男はそれ以上何も言わなくなった。
「けど、どうしてカヲル君を、お父さんが殺そうとしてるの?」
「それはねネオ君、僕が裏でゼーレと手を結ぼうとしている父を止めようとしているからさ」
「ゼーレと?」
「そう。ゼーレの使者がネルフに兵を送る前に来てね、ネルフに援軍を送らなければ、ゼーレはリリスを攻めないと言って来たんだ。けどネルフが滅びると、この大陸にはゼーレに対抗出来うる勢力は無くなってしまう。もし、そうなったら、次はリリスが滅ぼされる事になるだろうからねぇ。まず父を倒して、それからゼーレに戦争を仕掛ける。彼等に二方面作戦を取らせるのさ。必要なら、ネルフに援軍を送ってもいい。妹を見殺しにするのは忍びないからね」
「妹?」
「レイと言ってね、ネルフに同盟の証として嫁いだ妹さ。もっとも、僕は長いあいだ隣の大陸に旅に出ていたから彼女には長い間会ってないけどね。小さな時も可愛かったが、今なら相当な美人になっているはずさ」
「レイ・・・・。」
何故か聞いた事のある名前・・・。そう思った時、ネオは激しい頭痛と吐き気に襲われた。
「うぐ・・・・うっぷ、おえぇ」
ネオはその場にしゃがみ込んで吐き始めた。
「どうしたんだいネオ君」
「ネオ、大丈夫!?」
マナが背中を撫でていると、しばらくして少し落ち着いたのか、ネオがゆっくりと立ち上がった。
「ゴ、ゴメン。何だか急に頭が痛くなって来て・・・」
「本当に大丈夫かいネオ君?」
「うん、心配掛けてごめん。少し長旅で疲れてるのかも」
「だったら良いんだけどね」
カヲルは部下に出発の準備をする様に言うと、死んでしまった二人の仲間の髪を短刀で切って、懐にしまった。
「さて、君たちはどうする?僕と一緒に来てくれるかい?」
そう言って手を四人の方へ向けた。
「ゼーレと手を組んだ奴の所なんかで働きたく無いんでな、あんたに着いて行くさ」
まずムサシがその手を取った。
「右に一緒。僕たちはゼーレに恨みがあるからね」
ムサシに続いて、ケイタがその上に手を重ねる。
「どうも貴方の事は好きになれないけど、ゼーレと戦うなら、一緒に行くわ」
マナが手を重ねた。
「僕はマナたち三人に命を助けられたからね、彼等と一緒に行くよ。それに、カヲル君の力になりたいから」
ネオも手を重ねた。
「ありがとう。これで契約成立だねぇ」
カヲルは、女と見まがうほどの奇麗な笑顔を浮かべて、重ねた手をブンブンと上下に振った。
「さあ、これからが大変だ。まずは各地の実力者を仲間に引き入れなけりゃねぇ。愚鈍な父に味方する人間は少ないだろうけど、国がまっぷたつに割れる事になる。僕らは反乱軍となって父の率いる正規軍と戦って、勝たなけりゃならない。それが済んだら今度はゼーレ・・・・。考えただけで頭が痛くなりそうだけど、この国の事を考えたら、必ずやりとげなけりゃならない事さ」
「カヲル君、何事も最初の一歩を踏み出さなきゃ目的地にはたどり着けないよ。だから、まずは最初の一歩を踏み出そう」
「良い事を言うねぇ、さすがは僕のネオ君」
「カヲル君・・・」
異様な雰囲気の中、二人はしばらく見つめ合う。
「はいはいはいっ!何見つめ合ってるのよ二人ともっ!!まったく気持ち悪い!!」
マナが二人の間に入って、このヤバイ雰囲気を吹き飛ばした。実際、美少年二人が見つめあっているのは絵になっており、その手の趣味がある人には堪らないシチュエーションだろうが、生憎この場には一人もそんな危篤な趣味を持った人間はおらず、みんな一様に『イヤ〜ン』のポーズを取っていた。
「もう終わりかい?残念だねぇ」
カヲルは本当に残念がっていた。
「お〜い、準備が出来たぞ!遊んでないで出発だ」
ムサシがそんな三人を呼ぶ。
「さあネオ君、行くよ」
「うん!!」
「もうっ!ネオは私だけを見てればいいの!!」

後年、『二人の王』と言う本が、ケンスケと言う男の手で書かれ、二人の出会いは偶然では無く、必然であったと書かれているが、まったくその通りかもしれない。
どちらにしろ、生涯の友となる二人は、こうして出会った。




ネルフ、アイアス城。


城の城壁には杭で打たれたいくつもの穴があき、櫓などにはネルフの騎士達が絶命した時と同じ格好で放置されている。まさに死屍累々と言った風景である。
どうやら補給路を脅かすと言う作戦も失敗したのか、ゼーレ軍は撤退の気配を見せない。それに加え、篭城作戦も敵との圧倒的戦力差の為に風前の灯火となっていた。
「陛下、このままでは後二日もちません」
体のあちこちに包帯を巻いたオズマ将軍がゲンドウに報告した。
「そうか・・・・」
「やはりリリスは動かなかったな・・・」
自ら城の防戦指揮を取っていたゲンドウとコウゾウも、あちこちに傷を負っている。
「兵の疲労も限界に達し、もうこれ以上の篭城は無理でございます。どうせ負けるなら、一人でも多くの敵兵を道ずれに討ち死にとう存じます。どうか城を出て突撃を掛ける事をお許し下さい」
悲痛な表情でオズマ将軍が願い出た。
どうせ負けるならなど、兵を率いる人間が使うべき言葉ではないのかもしれない。しかし、アイアス城が最終防衛拠点である以上、もう後が無いのも事実だ。それならば、一人でも敵兵を多く道連れにする事こそが未来のネルフにとって必要な事である。
「分かった・・・。明日正午までに援軍が来なかった場合、全軍突撃をかける」
「陛下、それで本当によろしいのですか?」
「どちらにしろ篭城は明日までで限界、どうやら補給線を絶つと言う作戦も失敗した様だ。オズマの言う通り、ネルフの未来の為に一人でも多くの敵兵を道連れにせねばならん」
ゲンドウの決意の表情は、コウゾウをだまらせるのには十分だった。
「では、明日の正午、突撃でよろしゅうございますか?」
「ああ、問題無い。兵にはありったけの食料と酒をふるまえ」
「はっ。」
オズマ将軍はかかとを石で出来た床でカツンと鳴らすと、ゲンドウとコウゾウに一礼して部屋から退出した。
「コウゾウ、長い間世話になったな。明日の正午まで好きに過ごしてくれ」
「ふふふ、水臭いぞイカリ。今夜は共に酒でも酌み交わそう」
「ああ・・・」
その晩、いっそ晴れ晴れした表情で、長年共に戦って来た戦友は酒を飲み、古き良き時代を語り合った。





そして運命の日・・・


「とうとう来なかったな」
「ああ」
「そしてシンジ君も帰らなかった・・・・。まさかネルフがこんなに早く滅亡してしまうとは。自分の非才さが憎いよ」
「問題無い、レイが居る。もしもゼーレが悪政を行えば、必ず立ち上がる人間が出てくるはずだ。その時の為に、我々は少しでも敵を減らさねば」
「・・・・そうだな」
ゲンドウとコウゾウは、雲一つ無い空を見上げた。
正午になってもリリスからの援軍は来ず、ネルフの残存兵力は最後の突撃をかける為に城門の内側に集結していた。
騎士達の顔は明るく、これから死のうとしている人間達には見えない。彼等は守るべき人間がいる。その人達の為に自分の命を投げ出す事に、何の戸惑いを感じていないのだ。
彼等はゲンドウが現われると、剣を掲げてネルフ式の最敬礼をした。
「諸君、これから我々は最後の突撃を掛ける。ネルフの未来の為、一人でも多くの敵兵を道ずれにせねばならん。国の為、家族の為、そして愛する者の為に死ね!!」
「「「「「「「「「「「オオオオーーーーーーーーッ!!!!」」」」」」」」」」」
ゲンドウが腰の神剣『エクセリオン』を抜き放ち、太陽にかざすと、広場にいた騎士達が歓声を上げる。
そして城門が開かれ、ネルフ騎士団が死兵と化して突撃を開始した。


たまげたのはゼーレ軍であった。まさかネルフ軍が城から出るとは思わなかったのである。しかも彼等は、ちょうどこの日の城攻めの準備をしており、装備している武器も城攻めに有利な物ばかりで、野戦には全く向いていない代物だったのだ。
「馬鹿な!!城を出て突撃して来るだと!?奴等は正気か!!?」
ネルフ軍の士気はガタガタになっている、と考えていたサキエルは、突撃してくるネルフ軍を見て思わず叫んだ。
「ちっ!!奴等を包み込め!!逃げ場を作っておく事を忘れるなよ!!」
追い詰めた敵は思わぬ底力を出す。彼の判断は正しい物だった、もしネルフの騎士達が生きて帰ろうと思っていたならば、だ。しかし、死ぬ覚悟を決めたネルフ騎士団は、包み込もうとするゼーレ軍を食い破らんとするばかりに、前へ前へと進んで来る。
「そんな・・・・、奴らは死ぬつもりなのか・・・!?」
つぶやいたサキエルの目が、騎士団の先頭に立って突撃して来る男を見て、大きく見開かれた。
「あれは・・・・、ネルフの国王、ゲンドウでは無いか!!奴を倒せ!!」


「うおおおおおーーーーっっっ!!」
雄叫びを上げてゲンドウが彼のエヴァンゲリオン、『エクセリオン』を振るうと、剣先から紫色の光りがほとばしり、彼を向かえ討とうとしていたゼーレ兵五人が、原形を止めぬほどにバラバラに吹き飛んだ。
その隣では、コウゾウが周りに細かな指示を飛ばしながら、敵の一人一人に致命的なダメージを与えて倒して行く。
「ふふふ、昔を思い出すな、ゲンドウ」
「ああ」
四方を囲まれ、なおかつ圧倒的な数の差に、優秀なネルフ騎士たちが一人、また一人と倒れて行く。
しかし、彼等の捨て身の突撃は、ゼーレ軍に多大な被害を与えていたのも事実であった。騎士道など全く無視し、一人の敵を三人がかりで襲う。
凄まじいまでの執念で、身に刺さった剣を抱き抱えるようにして落馬するネルフ騎士も居る。そして剣を失ったゼーレ兵を、他のネルフ騎士が倒すのだ。
その突撃の凄まじさは、ゼーレ軍の背筋を凍りつかせた。


コウゾウが、彼に向かって飛んで来た弓を、剣で叩き落とす。
「私とお前とユイ君。三人で何度もこんな死地を潜り抜けて来た。しかし、些か疲れた。そろそろユイ君に会いに行くとするか」
「そうだな・・・・」
前へ前へと突き進んで来た二人だったが、気付いてみると周りの騎士たちは、インモータルコープスの数名を残して、ことごとく討ち死にしていた。
二人も体になん本もの矢が刺さっており、疲労の為に動きが鈍くなって来ている。
ゲンドウのエヴァを恐れていたゼーレ兵も、手柄に目が眩んだのか、それともゲンドウが疲労して居るのが分かっているのか、どんどん近寄って来る。
それを見たゲンドウは、体に刺さった矢を自分の手で引き抜いて、エクセリオンを構え直した。
「今そっちに行くぞ、ユイ・・・・・」
ゲンドウが死を目前にしてつぶやいた時、彼の目の前に白い陰が降り立った。
白馬にまたがり、鎧をまとったその女性を見た時、ゲンドウは息が止まるかと思った。何故なら、彼女はこの世にはもう居ないはずの人物だったから。
「ユイッ!!」
彼の叫び声に、女性は振り向いた。
「お義父様、お助けに参上いたしました」
女性は手に持ったエヴァンゲリオン、『タナトス』で接近していたゼーレ兵を切って捨てると、ゲンドウにその紅い瞳を向けた。
ゲンドウが彼の妻と錯覚したのは、白銀の鎧をまとったレイであった。


「なんだと!!敵の援軍の接近を許したと言うのかっ!!」
あと一息でネルフ国王の首が取れると言う所で、彼等とゲンドウの間に、突然現われた四千ほどの騎兵が割り込んで来たのだ。敵国の王の首が目の前にある事に、周辺に対する注意を怠ってしまった。サキエル自身にも責任はあるのだが、彼は部下を怒鳴る事で自分自身に対する怒りを発散した。
援軍は虚を突かれたゼーレ軍の包囲の一角を突き崩し、ゲンドウ以下残存兵力を吸収すると、素早く反転して戦場から離脱し始めた。
「逃がすな!!追えぇぇーーっ!!!!ゲンドウの首を取った者には、金貨百枚を与えるぞっ!!」
なんとかゲンドウを逃がすまいと、サキエルは必死になって追う様に命令するが、大軍なので反応が遅く、しかも騎兵と歩兵が混ざって追っているゼーレ軍は、騎兵だけで逃げているネルフ軍に追い付けるはずが無かった。
見る見るネルフ軍は遠ざかり、サキエルは追撃を諦めるしか無かった。
「おのれ〜〜っ!!後一歩だったと言うのに!!え〜〜い、いまいましいっ!!」
拳を握りしめて歯ぎしりするサキエルが手に入れたのは、空城と化したアイアス城だけであった。


ネルフ軍は、サキエルの命令を無視して追ってくる三千ほどの騎兵に追われていたが、彼等を本隊からかなり引き離した後、林の側で半転すると、逆撃に転じた。
「マコト、手筈通りに林に合図を送りなさい」
「はっ」
レイが彼女と並んで乗馬しているマコトに命令すると、彼は赤い旗を手に取って、林に向かって振って見せた。
すると林の中から歓声が上がり、一万を上回る数の歩兵が、ゼーレの追撃軍を包囲する様に出て来た。包囲網が完成すると、ゲンドウを助けた四千の騎兵が先頭に立って、追撃して来たゼーレ兵に突撃を掛ける。
「あれはシルバーファング隊だな・・・・、それから後の二千は私がゼーレの補給線を絶つ為に、アイアス城が包囲される前に出した部隊だ・・・・・。しかし、後の一万ほどの歩兵は一体何処から来たのだ?」
追撃して来たゼーレ兵が包囲網の中でなぶり殺しに会っているのを見ながら、ゲンドウが不思議そうにつぶやいた。彼の側に止めてある荷台には、怪我と疲労で意識を失ったコウゾウが横になっている。
歩兵の訓練度が低いわりに、統率がとれている様に見えるのは、優れた指揮官の指揮による物だと言うのがゲンドウには分かった。そして信じられない事に、その指揮官とは、彼の息子の嫁、レイ姫であった。
みるみる追撃軍は倒されて行き、残った兵士も命からがら逃げて行った。


レイがシゲルとマコトを従えて、戦場から離れた場所で戦いを見ていたゲンドウに近寄って来ると、彼の前にひざまずいた。
彼女の白いマントは、敵の返り血を浴びて鮮やかな赤に染まっていた。
「お義父様、勝手に義勇軍を募り、民間人を戦場に連れて来た事をお許し下さい」
「義勇軍?」
「はい。ゼーレの支配は耐えられないと、数々の若者達が立ち上がってくれました」
レイは、シゲルに義勇軍を募らせると、集まった人々に武器と防具を与えて、アイアス城を目指して北上して来た事。その途中、偵察に出した兵士がネルフ騎士団を見つけ、それがなんと補給線を絶つ為に作戦行動中だったシルバーファング隊と、ゲンドウが与えた二千の騎兵だったと言う事。そしてアイアス城が陥落しそうだと知った彼等と合流し、義勇軍を林に隠した後、騎兵だけでアイアス城へ駆けつけた事などをゲンドウに報告した。
ゲンドウは彼女の言葉を聞いて全て納得がいった。
「そうであったのか・・・。大義であった」
「ありがとうございます」
ふとレイがゲンドウを見ると、馬にまたがったゲンドウのつま先から、血の雫がしたたり落ちているのが見えた。気付かなかったが、彼の顔は汗でびっしょりと濡れている。
「お義父さま、怪我をされているのですか?」
ゲンドウがいつもと変わり無く、背筋を伸ばして馬にまたがっているのと、マントで体が覆われていた為、怪我をしている事にレイは気付かなかったのだ。
「陛下、失礼!」
マコトがゲンドウの隣へ行き、彼のマントを手ではね除けた。
「っ!!!」
マントで隠されていた光景に、その場にいた全員が息を飲み込んだ。
ゲンドウの腹部にはかなり酷い切り傷があり、下半身はその傷口から溢れ出た血で真っ赤に染まっている。そして、右腕もかなり酷い状態で、半ば切断されかかっていた。
「軍医を!!早く軍医を呼べっ!!!」
一瞬の空白の後、シゲルが彼の部下に軍医を呼んでくる様に命令する。マコトはこれ以上の出血を押さえる為に、自分のマントを引き裂いてゲンドウの右腕の付け根を縛った。
「問題無い」
ゲンドウのこの言葉には、その場にいた全員が心の中で意義を唱えたが、口には出さなかった。


「レイ、ジオフロントへ使いを出して、住人にゼーレが来る事を知らせてやれ。それから義勇軍も解散させろ」
軍医に治療されながら、ゲンドウがレイに言った。
「我々の戦力では、もはやゼーレを止める事は出来ない。ネルフは事実上滅んだ」
どこか遠い目をして、ゲンドウは透き通る様に青い空を見上げた。
「では、我々は王族としての義務を放棄し、国民を見捨てて、これからどうすると言われるのですか?」
信じられないと言った表情をして、レイが唇を噛みしめた。
「いや、すべてを投げ捨てる訳では無い。我々はこれからゲリラ戦を展開する。ジオフロントのさらに南にシャーウッドの森と呼ばれる場所がある。その森へ引き篭れば、長期に渡ってゲリラ戦を展開出来るはずだ。私は残った騎士達を率いて戦い続ける」
「ゲリラ戦を・・・?」
「ああ、そうだ。レイ、お前はリリスへ帰れ。シンジが死に、リリスとの同盟も白紙に戻った今、お前が此処に残る必要は無い」
まだ十四歳であるレイならば、新しい縁談もあるかも知れない。滅んだ国で一生を過ごすより、他の国へでも嫁いだ方が彼女は幸せになれるだろう。
「陛下・・・、あの人・・・シンジ殿下は死んでなどおりません!」
この時、ゲンドウ達は始めてレイが声を荒げるのを聞いた。
「陛下、私はもはやリリス王家の者では無く、ネルフ王家の人間です。どうか、私も一緒に戦わせて下さい。それに・・・」
「それに?」
「私は、シンジ殿下の帰って来る場所を守りたいのです・・・」
「そうか・・・・。お前はやはり似ているな・・私の良く知っている女性に」
ゲンドウは、めったに人前では見せない笑顔をレイに向けた。




三日後、ゼーレ軍はネルフの首都ジオフロントを占領する。セントラ城もネルフ軍は放棄しており、ゼーレ軍は難無く入城出来た。
首都ジオフロントを占領された事により、南方の一部を除いて、事実上ネルフはゼーレ軍の手に落ち、ゼーレ王国の一部となった。

後に、ネルフの残存兵は、シャーウッドの森へ立て篭り、『国土解放軍』としてゲリラ戦を展開して行く事になる。レイが募集して集めた義勇軍は、解散する事を承知せず、残存兵と共に戦うと主張し、そのまま彼等と行動を共にする事になった。

ゼーレの占領下に置かれた町では、重い税が課せられ、過去と同じく凄惨な光景が繰り広げられる事となり、国民は塗炭の苦しみを味わう事になる。
しかし、旧ネルフの国民は希望を捨てた訳では無い。何故なら、月の女神アルテミスの化身と呼ばれる一人の少女が、南の森で祖国を解放する為に戦っていると知っているから。

そして、三年の月日が流れた・・・・・。






to be continued


戻る