正妃との間に嫡子が出来るまでに、ネオ皇帝は二人の子供を作った。
この二人の子供は対照的人生を送る事になる。
一人は嫡子である皇太子に絶対の忠誠を誓い、外敵を幾度となく退け、帝国の英雄となった。
もう一人は皇帝の子とは認めてもらえず、第二騎士団の団長の息子として育てられ、後に養父と共に帝国に反旗を翻し、母の手によって倒された。
後世の歴史家たちは息子を殺したネオ皇帝を冷血と呼ぶかもしれない。
しかし、私は知っている。
我等の皇帝陛下が息子の悲報を聞いたその夜、自室でむせび泣いていた事を。
そして陛下が崩御なさるその時まで、懐に息子の遺髪をお守りのように入れておられた事を。




ある帝国近衛騎士の手記より・・・







エヴァンゲリオン戦記

Chapter 20: ジオフロント解放







首都ジオフロントを取り囲むリリスと国土解放軍の連合軍の元へ、レイが命からがらネルフ北部から帰って来てから、すでに一週間半が経っていた。
戻って来たレイは、すぐにネオがゼーレの捕虜になった事を幹部達に伝え、救出部隊を派遣する事を提案したが、それは全会一致で反対されてしまった。
レイはネオがネルフの王太子であるシンジだと主張したが、それを信じる者は皆無だったのである。
彼女の権限は強力な物であったが、同時にネルフの旧臣達の間では危険視されてもいた。
リリス出身のレイをこころよく思って居ない彼らは、信憑性が皆無に等しい情報を元に貴重な戦力を割く訳にはいかないと口を揃えて言ったのだ。
レイに忠誠を誓い、彼女を擁護してきた幹部達も今回の件については彼女の意見を聞き入れようとはしなかった。
もし仮にネオがシンジ王子だと仮定し、救出部隊を派遣したとしても、本当に捕虜にされた人間を取り返せるのかと言う問題もある。広大なゼーレ国土の何処へ連れ去られたのかも知れず、もしかすれば既に殺されている可能性もある。救出できる可能性は、ほぼゼロと言って良いものだ。
それに加え、リリス軍の幹部もシンジとネオが同一人物であると言う事を否定した。
リツコ・レッドキャッスルを始めとする彼らリリス軍の幹部達は、ネオがリリスで生まれたネルフ人だと主張し、レイ姫は錯乱されていると決めつけたのだ。
これにより、レイの主張する救出部隊派遣は行われなかったのである。
半狂乱になって自分が彼を救い出すと言い出したレイを、ネルフの幹部達は彼女を拘束すると言う形を取って頭を冷やさせる事にした。



リリス幹部達にあてがわれた天幕の中では、深刻な話し合いがされていた。
緊迫した雰囲気の中、幹部達はネオ救出部隊のメンバーをシュトース・ヴィントの中から選んでいたのである。
レイがもたらしたネオ捕縛の一報は、彼らリリス軍幹部達に衝撃を与えた。
ミサトなどは卒倒しかけたほどだ。
リツコは十分な護衛無しでネオを送り出した事を後悔した。まさか三万もの敵兵と遭遇するなどとは夢にも思っていなかったのだ。
とりあえずネオの正体が露見するのを恐れ、レイ姫の救出部隊派遣の要請は拒んだものの、彼等としては旗印であるネオを、どうしても救出しなければならない。
そこで、これからジオフロントを目指して南下してくるであろうゼーレの二万の援軍をシュトース・ヴィントのみで迎撃する事にした。
あまりジオフロントを包囲している連合軍から人数を引き抜く訳には行かないので、数的には遥かに劣勢になってしまうが、リリス軍のみでの迎撃になる。
シンジの救出を極秘で行うのに好都合だが、厳しい戦いになるのは疑いがない。
軍師であるリツコが打ち出した作戦は次のような物だった。
シュトース・ヴィント単独でこれを撃滅。そして指揮官、または幹部クラスの者を捕虜にしてシンジの居場所を聞き出すのだ。必要とあれば拷問にかけてもよい。
次に、選りすぐりの精鋭百名をもってゼーレに潜入、そしてネオが囚われている場所に強襲をかけて救出する。
もしネオの行方が聞き出せなかった場合、精鋭百名は十名づつ十グループに別れてゼーレ内部で情報収集に従事し、居場所が特定できしだい再集結、そして強襲を掛ける事にした。
この時点でリツコはネオが遥かゼーレの首都コキュートスにまで連れて行かれたとは考えていなかった。国境と首都の間にある捕虜収容施設、または小規模な砦に監禁されていると考えていたのだ。
もちろん、彼がリリスの指揮官またはネルフの王子という事が露見してしまえば、事態はまた違った方向に進むであろうが、ネオが口を割らない限りその可能性は薄い。
救出部隊はその危険性の為、生還は難しいと考えられた。
そこで始めは志願者を募ったのだが、シュトース・ヴィントの過半数の騎士達がこれに志願し、リツコ達は逆に誰を切り捨てるかに頭を悩ませなければならなかった。
まず彼女は志願者の中から妻帯者を外し、それから個人の能力に応じて残った志願者の中から隊員を選出していった。
選ばれなかった騎士達の中には、どうして自分が選ばれなかったのか不満に思い、リツコに詰め寄る者もいたが、彼女はそれらの者一人一人に選ばれなかった理由を丁寧に説明していった。
こうして選ばれた百人の救出部隊は、次の迎撃戦には参加せず、後方で待機する事になった。
ジオフロント内に包囲軍の異変を露見させない為、シュトース・ヴィントは闇夜に紛れて出撃した。彼等がいた場所には藁を束ねて作られた無数のカカシが立てられた。これらは遠くから見れば、まるで本物の人間が立っているように見え、包囲軍の数が減少したようには見えない。もちろん天幕もそのまま置いて行ったので、ジオフロントから見てもなんら異変は見受けられなかったのである。
出撃したシュトース・ヴィントは北を目指して進軍を始めた。
予想されるゼーレ軍の援軍を目指して。



ネルフを占領しているゼーレ軍を指揮しているのは、サキエル卿である。
彼は今、かつてはネルフの王城であったセントラ城から彼等を包囲している連合軍を眺め、硬直してしまった戦況に苛立った表情をしていた。
目下、彼は十二万の兵士を指揮していたが、力任せに決着をつけようとは考えていなかった。
包囲されていると言っても、連合軍の戦力はゼーレ軍より遥かに劣っている。蹴散らそうと思えばいつでも連合軍を粉砕できるのだ。
それをしないのは、サキエルがこれ以上の戦力の消耗を恐れたからであった。
ジオフロントを取り囲む城壁から外へ出られる門は三つ。さすが一国の首都だけあって、かなり頑丈で大きな門ではあるが、騎兵が横に並んでそこから出るとなると一度に十人が限界である。
首都を包囲している連合軍は、その門を狙い撃ち出来るように弓兵を配置し、城壁から放たれる弓矢の射程ぎりぎりに堀を築いて騎兵の移動を困難にしていた。
これでは首都から外へ兵士を移動させるまでに、かなりの損害が出る事を覚悟せねばならない。
本来であれば中にいる者を守ってくれるはずの城壁が、外にいる敵を討つ足枷になってしまっているのだ。なんとも皮肉な話である。
サキエルが首都を包囲される前に連合軍の接近を察知し、なおかつ首都の外へと軍を出していれば戦況はかなり変わっていた事であろう。
シュトース・ヴィントやシルバーファングと言った精鋭が連合軍には存在するとは言え、ゼーレ軍はそれでも倍の戦力を持っているのだ。消耗戦になれば大きな損害をだしても勝てていたかもしれない。
自分では気付いていないかもしれないが、サキエルは消極的になっていた。彼がその気であれば首都に戻ってすぐに軍を再編し、半数の戦力を首都に残し、あとの半数で北上してくるであろう連合軍と戦う事も出来たはずだ。その積極性に欠ける判断力が、以前の敗戦に起因している事は疑いない。
彼の消極性に拍車をかけていたのが、首都内の兵力低下による市民の反乱の可能性であった。
ネルフの首都であるジオフロントには300万以上の市民が生活している。もちろん、そのすべてが城壁の内側で生活しているわけではないが、彼等が反乱を起こせばゼーレ軍は大混乱に陥ってしまうだろう。
三年間におよぶゼーレ軍の駐留は、ネルフ人の心にどす黒い憎悪の炎を灯すのに十分な時間であった。
首都の兵員を半数に減らす事は、彼等を暴発させるきっかけにもなりかねない。
「とりあえず全軍篭城して首都の治安を維持しつつ、本国からの援軍を待ち、外と内から挟撃する」
これがサキエルの出した戦略であった。
すでに夜陰にまぎれて使者を城壁の外に出し、本国へと援軍の要請を送ってあった。
あとは援軍を待つだけである。
しかし、彼はその使者がリツコの手によって捕らえられていた事を知らなかった。



最初に異変に気付いたのは外を眺めていたサキエルであった。
敵の陣地に大きな動きがあったのである。
「なんだ?攻撃でもしかけるつもりか?」
堅固な城壁で囲まれた首都は高々5万ほどの兵で落す事は難しい。しかも、こちらには10万を超える兵が立て篭もっているのだ。
しかし、どう見ても敵は戦闘準備をすすめている。
慌てているのか、すこし混乱気味に見える。
「誰か!誰かおらんか!?」
彼が呼ぶとすぐに扉が開いて彼の部下が入って来た。
サキエルは全軍に戦闘準備をするように命令を出すと、もう一度外の敵軍に目を向けた。
混乱気味の敵陣の後方に、大きな土埃が上がっている。
それを見て納得が行ったとばかりに、サキエルは右の拳を左の手のひらにぶつけた。
「そうか!!援軍か!!」
彼は部屋に置いてあった鎧をひっつかむと、全軍の指揮をとるために外へ飛び出して行った。
「援軍が来たぞ!!これから敵を外と内から挟撃する!!門を開け!!」
城から出たサキエルは戦闘準備の整った兵士を門の前に並ばせた。
そうこうしている内に、戦況は刻々と変わって行く。
連合軍の陣地の裏側から現れたゼーレ軍の援軍は、正面から陣地へと突入して行き、戦う準備が出来ていない連合軍兵士を尻目に天幕に火を放ち、矢を射ち、槍を投げつけた。
あれでは、天幕の中の兵士は何が起こったか分からぬ間に殺されただろう。
「いいぞ!!やれやれぇ!!」
城壁の上のゼーレ兵士が興奮した口調で外の援軍に声援を送っている。
「よし!開門!!」
重い扉が開くと、まず機動力のある騎兵がなだれをうって飛び出して行く。
しかし、先頭を走っていた騎兵は飛んできた弓矢に喉を貫かれて落馬する。
飛び出してくる敵兵をねらっていた連合軍の弓兵に射殺されたのだ。
ゴウッっと音を立てて無数の弓矢が飛び出した彼等に降り注ぐ。それはまるで振り下ろされた死神の鎌のように、簡単に彼等の命を刈り取って行った。
「ひるむな、突撃しろ!!」
サキエルの叱咤が飛ぶと、死の恐怖に怯えながらもゼーレ騎兵達は飛び出して行く。
死の雨を潜り抜け、敵の防衛線に近づいた騎兵達を待っていたのは深い堀であった。
飛び越えるのを躊躇して立ち止まった騎兵は弓兵の近矢で射殺されてしまう。前方の騎兵が倒れるのを見て、後から来た騎兵は減速せずにそのままのスピードで堀まで進むと、それを飛び越えた。
なんとか堀を飛び越え、敵の防衛ラインへとたどり着いた騎兵は左右に散開し、弓兵を追い立てて行く。
サキエルも降り注ぐ弓が少なくなったのを確認すると城壁の外へと飛び出し、堀を簡単に渡れるように橋を作らせはじめた。
連合軍の防衛ラインは幾つも奥に向かって重なっており、そちらから矢がちらほらと飛んでは来るものの、一番の山場は乗り越えられたようなのでサキエルは胸を撫で下ろした。
前方を見てみると、敵陣を突破した援軍がこちらに向かってくる。
そのまま防衛ラインを後ろ方向から目指して進むゼーレ軍の援軍を見て、防衛ラインでサキエルの軍を迎え撃とうとしていた連合軍は慌てて左右に散開して逃げて行く。
前方からの敵襲を想定してつくられた陣は、後方からの襲撃には全くの無力だ。
ゼーレからの援軍の後方には、ようやく戦闘準備の整った連合軍の騎兵が追いすがっていた。
「ええい!援軍の指揮官はばか者か!?こっちに向かって来てどうする!?これでは挟撃の意味が無いではないか!?」
城壁の方へと一直線に駆けて来る援軍を見て、サキエルは悲鳴を上げた。
後ろを見てみると、城壁の外にはまだ全軍の十分の一ほどしか出ていない。この状態で敵に襲われれば、外に出た味方が後続の兵士をブロックしてしまい、後続の兵士は外へ出られない。しかも、外では局地的に戦力が逆転してしまい、簡単に討ち取られてしまうだろう。
「紅い騎兵・・・・・、あれはラングレー騎士団か。ケツの青い小娘がっ!!共倒れするつもりかっ!!」
圧倒的有利な状態を逆転させてしまいかねない援軍指揮官の用兵に、サキエルは顔を真っ赤にして怒った。
その時、先行して走ってきたラングレー騎兵が、サキエルに馬を寄せてきた。
「サキエル卿とお見受けいたす。火急の報告があり、駆けつけました。リリス軍の大群がネルフ陣地の後方より迫っております。その数およそ7万。サキエル卿におかれましては、ただちに我々と共に城壁内へとお戻りいただきたいと我が主が申しておりまする」
「なんだと!?リリス軍だと!?なぜそんな大軍が???」
「ネルフ軍と同盟を結んだ模様です。さ、早く軍を中へと戻さないと手遅れになります!」
「よし、分かった!」
よく状況が飲み込めていない状態ではあるが、今はこの騎兵の言う事を信じるしか無い。
彼の言う事が本当であれば、サキエルは同数以上の敵と野戦を挑まねばならない事になる。彼は自分の部下の能力を過大評価してはいなかったので、ネルフとリリスを相手に数的劣勢の下で戦うという選択はしなかった。
「全軍撤退!!城壁の中へ戻れ!!」
ゼーレ軍は混乱したが、なんとか城壁の中へと戻り出す。
なんとか外に出た全員を中に入れる事に成功した時、ラングレー騎士団が城門の外に到着した。彼等は城壁の中へと入ってゆくゼーレ兵を追うようにして城壁内へとなだれこんでゆく。
先頭で馬を走らせていた女性が城門を潜ると、守備兵達の目は彼女に釘付けになってしまった。美しく長い髪をなびかせて門を潜ったのは、若きラングレー領の領主、アスカ・ラングレーである。
彼女は配下の騎士がすべて城門の内側へと入るのを見届けると、さっと片手を上げた。
それを挨拶だと受け取ったサキエル配下の兵士達は歓声を上げたが、次の瞬間、彼等の目は驚きの為に大きく見開かれた。
アスカは振り上げた手をゼーレ兵士に向けて振り下ろすと、憎悪に歪んだ表情で「かかれ」と一言だけ言ったのだ。
次の瞬間、あたりから怒号と悲鳴が上がり始めた。
ラングレー騎士団は剣を抜き放つと、背中を向けているゼーレ兵を突き殺し始めた。
「裏切りだーーーーっ!!」
誰かが叫んだが、この時点で状況を把握できた者はごく少数でしかなかった。
「城門を閉じさせるな!!この広場を確保しなさい!!」
矢継ぎ早にアスカが命令すると、騎士団の一群が門を閉じようとしていたゼーレ兵を切り殺し、城門の外に出て旗を振る。
何十人かの騎士達が城壁の上にあがり、迫りつつあった連合軍を射殺そうと弓を構えていた兵士を切り殺したり、城壁の外へと突き落としたり始めた。
ゼーレ軍は大パニックに陥った。



一旦城へ戻ろうとしていたサキエルは、後方の騒ぎに何事かと振り返った。
「なんだ?何が起こっている!!?」
彼が見たのは、混乱の中で次々と味方に切り倒されてゆく味方と、味方を切り殺す味方であった。
「う、裏切りか!!」
サキエルの背筋に冷たい物が走った。ジオフロントを囲む城門は開け放たれたままである。
「いかん、城門を閉めろ!敵がなだれこんでくるぞ!!」
彼が部下をつれて引き返そうとするのと、城門の外から連合軍の兵士がなだれ込んでくるのとは、ほぼ同時であった。
なんとか城門を閉じたいサキエルであったが、城門の前の広場はラングレー騎士団によって制圧されており、容易に突破出来そうにない。
すでに城壁の上にはゼーレ兵は一人もおらず、残る二つの門が開け放たれるのは時間の問題と言えた。
「なんて事だ・・・・」
こうなればセントラ城に逃げ込むしか無い。
サキエルが足をセントラ城へと向けて駆け出したその時、彼の後方でサキエルに追いつこうと走っていた数人のゼーレ兵が石をぶつけられて倒れた。
倒れた兵士達に、無数の市民が群がる。
「ネルフ軍が帰って来たぞ!!みんなゼーレのクソッタレどもを血祭りに上げろぉっ!!」
市民の一人が叫んだ。
彼の叫びに呼応して、あちこちで市民がゼーレ兵に襲い掛かった。
石を投げつけ、棒で殴りかかる。女性は料理用の包丁で切りかかった。
ゼーレ兵も鎧や剣を装備しているとは言え、何百人という市民に一斉に石を投げつけられてはひとたまりもなかった。
一方、市内になだれこんだ連合軍は、広場や公園などの橋頭堡を確保しつつ、草を刈り取るようにパニック状態のゼーレ兵を切り倒して行く。
中でもラングレー騎士団の活躍は目覚しく、敵を軽々と粉砕し、降伏を申し出た敵も見境無く惨殺して行く。彼等は復讐者となりゼーレ兵を狩りつづけた。
シュトース・ヴィントと共に市内に突入したネオは、そんな彼等を見て戦慄した。
本来なら彼等は敵側の人間である。ネオと戦っていたかもしれなのだ。
「シームルグ教会に敵が多数逃げ込んだと報告がありました」
伝令が戦況を伝えてくる。
「第三部隊を向かわせなさい」
ネオの隣に馬を並べていたリツコが、細かい指示を次々と出してゆく。
「うまくいきましたね」
ミサトが馬を近づけてきた。彼女と彼女の配下の騎士たちは、つい先程まで町の西側にある広場で激戦を続けていた為か、彼女の鎧は返り血で紅く塗装されていた。
「そうだね。僕もこんなにうまく行くとは思ってもみなかったよ」
北上してきたシュトース・ヴィントと遭遇したラングレー騎士団は、危うく戦闘状態に陥りそうになりながらも、合流に成功したのだった。
ネオの無事を喜ぶミサトを尻目に、リツコは今回の作戦を立てた。
まず首都を包囲している連合軍に使者を出し、作戦の内容を伝えてから、連合軍の陣地の後方から接近し、襲い掛かった。
この時彼等が襲い掛かった陣地は、リツコが連合軍から離れる時に偽装した空の陣地であった。それらに火と放ち、弓を射掛け、槍をなげつけたのだ。
もちろん、それらに人が入っている訳がなく、死傷者など皆無である。
すれ違い様に立ててあったカカシなどの首を剣ですっ飛ばしたりしたので、ゼーレ軍の目にはまるで人の首が飛んでいるように見えた事だろう。
後はご存知の通り、アスカがなにくわぬ顔で門の内側へ入り、反旗を翻したのだ。
リツコが事前に潜り込ませていた間者もおおいに役に立った。彼等は市民が暴徒化するきっかけを作り、ゼーレ軍をパニック状態に陥れた。実は、一番初めに声を張り上げてネルフ軍の来訪を告げたのも、間者の一人である。
「これでネオ様も胸を張って本当のお名前を名乗れますね」
ミサトが小声でネオに耳打ちする。
「そう・・・・長かった・・・」
ネオは感慨深げに呟いた。



入り組んだ町並の中を、アスカは単騎で駆け抜けていた。
部下と離れ離れになってしまい、なんとか合流しようと四苦八苦していると、前方の曲がり角からゼーレ兵が一人飛び出てきた。
市民に追われているのか、彼は頭から血を流しており、荒い息をつきながらよろよろと走って来る。
アスカは剣を握りなおすと、馬を加速させてすれ違い様に切り下げた。
頭を割られた敵兵は、声も上げずにその場に崩れ落ちる。
もうアスカは自分が切り殺した敵兵の数を数えるのを止めていた。レーヴァテインで倒した敵兵の数は、三桁にとどいているだろう。
「まずいわね、こう入り組んでいたら、自分の位置もわからなくなるわ」
馬を止めて辺りを見回した。しかし、異国の町並に見覚えがあるはずもなく、完全に迷子になってしまったアスカは途方に暮れる。
「あれ?」
手の中の剣がかすかに震え始めたのを感じて、アスカの体に緊張が走った。
「何?エヴァンゲリオンが近くにあるの??」
一瞬、ネオが近くに来ているのかと考えたが、彼は指揮をとるために城門近くに布陣して動く事は無いはずだ。
その時、先程ゼーレ兵が飛び出してきた曲がり角から、騎兵の一群が姿を現した。
白銀の甲冑を身に纏い、長い蒼銀の髪をなびかせて現れたのは、首都攻略の為に軟禁を解かれたレイ・イカリであった。
彼女の隣には、シルバーファングの自称副隊長マコト・ヒューガの姿もある。
しかし、二人に初めて会うアスカはそんな事は知らない。
レイとマコトも、一瞬敵が現れたと見て身構えたが、アスカの紅い鎧を見て緊張を解いた。
「我々は国土解放軍の者です。ラングレー騎士団の方とご推察いたしますが、間違いありませんか?」
マコトが声を張り上げる。
「私はラングレー騎士団の団長、アスカ・ラングレーです」
アスカも敵では無い事が分かって緊張を解いた。手に握っていた剣を、鞘に入れる。
「私は国土解放軍司令官、レイ・イカリです。この度の助勢、ありがとうございました」
相手が力を貸してくれた騎士団長だと知り、レイは一礼した。
馬を近づけ、握手を求めてきたレイをみて、アスカは少し面白くなさそうな顔をする。
「なんだ、アイツ結構面食いなんだ・・・・」
「何か?」
「いえ、何も。ところで、前線はどちらの方角でしょうか?迷子になってしまったので・・」
こうしてレイ一行と合流したアスカは、前線へと戻って行った。
これが後に「帝国の月と太陽」と呼ばれるようになる二人の出会いであった。



ラングレー騎士団による裏切り、連合軍の攻撃、そして市民の一斉蜂起などにより、ゼーレ軍はまともに戦う事も出来ずに崩壊しつつあった。
すでに門は三つとも開放されており、町には連合軍が溢れ返っている。
あちこちで分断された彼等はお互いに連絡をとる事すらできず、ゆえに組織立った反撃を試みることができないでいた。
こうしてバラバラになった彼等は、連合軍に各個撃破されるか、もしくは市民によってなぶり殺されて行った。
司令官であるサキエルも、命からがらセントラ城にたどり着いたが、城内へと入る事は出来なかった。城門は閉じられており、城にはネルフの国旗がなびいていた。
「くそっ!!守備兵は何をしていたんだ!!」
毒づいてみても、状況は好転する事は無かった。
第一、総攻撃をかけるために守備兵からも人員を引き抜いたのはサキエル自身である。なんとか死守しようと戦って果てた守備兵からしてみれば、理不尽極まりない言葉である。
「くそっ!!こんな所で死んでたまるか!」
なんとか脱出しなければならない。
こんな大敗北を喫したのだから、本国へ帰る事はできない。どこか田舎でほとぼりが冷めるまで隠れていなければならないだろう。
しかし、さしあたってどうやってこの窮地から抜け出すかが問題だ。
城壁を目指して走り始めたサキエルを、市民の一団が発見した。
「おい!!こっちに一人いるぞ!!」
「相手は一人だ、殺ってしまえ!!」
口々に叫ぶと、棒や石を持って追いかけてくる。
「まずい!」
走って彼等から逃げようとしたサキエルだったが、市民の一人が投げた石を足に受けて倒れてしまった。
「よーし、倒れたぞ!囲め囲め」
「ま、待ってくれ・・・・」
「うるせぇ!!このゼーレの犬野郎が!!俺のお袋が待ってくれと言った時、おまえ等は待ってくれたのかよ!!」
男が怒鳴ると、手にした棒でサキエルの頭を殴りつけた。
「ぐはっ!」
「俺のお袋はなあ、おまえ等の前を横切ったってだけで因縁をつけられて、殴り殺されたんだぞ!!」
「私の夫は、無銭飲食を注意した途端に胸を刺されて死んだ!!」
まだ若い女がサキエルの太股に包丁を突き刺した。
「助け・・・・・助けてくれぇ・・・・・」
「るせぇ!!」
市民に囲まれたサキエルは、殴る蹴るの暴行を受け、しばらくすると動かなくなった。



こうして、三年間に渡るゼーレのネルフ占領は終わりを告げたのであった。
この日、10万を越すゼーレ兵が街と言う名の巨大な怪物に飲み込まれ、二度と故郷の土を踏む事は無かったのである。
ここに、ネルフの首都ジオフロントは開放された。



凱旋した連合軍を、ジオフロントの市民は熱烈に歓迎した。
連合軍は歓声をもって迎えられ、市民は国歌を歌いながら涙した。
市民の若い女性の中には、連合軍の兵士に抱きついて接吻する者すらいる。
連合軍の中でも特に大きな歓声を受けたのは、三年間ものあいだ戦い続けたレイであった。
ジオフロントの市民も南方で戦うアルテミスの化身を知っており、彼女と彼女の指揮する国土解放軍の存在を心の支えにして生きてきた人々が多数存在したのだ。
セントラ城へ凱旋すると、彼女は慌しくネオを探し始めた。
戦いが始まる前に彼女は彼に会えず、戦いの最中には別々の場所で戦っていたため、今まで一度も会っていなかったのだ。
ネオがシンジであると信じて疑わないレイは、はやる気持ちを抑えながら城内を歩き回った。
連合軍はセントラ城を集結場所と決めていたので、ネオも必ずこの城の何処かにいるはずである。
胸は高鳴り、いつもは雪のように白い肌もうっすらと桃色に染まっている。
「レイ様」
キョロキョロと辺りを見回す彼女に、話し掛けてきた人物がいた。
レオン・フォン・ブラウンである。
「レオン、何か用ですか?私は急いでいるのです。急ぎの用でないなら、後にしなさい」
通りすぎようとするレイの腕を、彼はがっしりと掴んだ。
「ぶ、無礼な」
「そんなにお時間はとらせませんよ、レイ様」
彼はレイ片手ですぐ側にあった部屋の扉をひらくと、強引にレイの唇を奪った。
「ん!!うんん!!」
突然の事に混乱したレイを部屋の中へと引っ張り込むと、すかさず扉をしめた。
「や、止めなさいレオン、貴方はいったい何をしているか理解しているの!?」
「ええ、分かっていますとも」
レオンは焦っていたのだ。レイは明らかにあの仮面の騎士に心を奪われている。彼はレイがネオこそがネルフの王太子であると主張したのは、ネオを助けたい一心でついた嘘だと考えていたのだ。
このままだと、レオンからレイの心は離れて行ってしまうだろう。そうなれば、彼女の夫となってネルフを牛耳ると言う自分の目論見が水泡に帰してしまう。
そうなってしまう前に、既成事実を作るための強硬手段に出たのだ。
一度事におよんでしまえば、彼はレイを言いなりにさせる事は簡単だと思っていたし、自信もあった。彼と関係があった今までの女性のように。
彼が慣れた手つきでレイの服を脱がそうと彼女の腰に手を伸ばした時、レイが腰から護身用の短剣を引き抜いてレオンの腕に突き刺した。
「ぐあああああっっっ!!」
レオンが叫びながら飛びのく。
「よくも私の唇を奪いましたね・・・・・・。よくも、よくも・・・・。この体は髪の毛一本に至るまで、すべてシンジ殿下の物。それを・・・よくも汚しましたね・・・。許しません!!」
彼女は服の袖でゴシゴシと唇をこする。あまり乱暴にこすったので、すぐに擦り切れて何箇所からか血が滲み出した。
血が溢れる腕を震える手で押さえたレオンは、レイの怒りの形相に怯えて後ずさりを始めた。
「お、落ち着いてくださいレイ様・・・」
紅く染まった短剣を持ったレイが、一歩一歩近づいてくる。
恐慌状態に陥ったレオンは、扉を開けて飛び出して行った。
「うっ・・・・うっ・・・・・あ・・う・・」
彼が飛び出して行った後、レイはよろよろとその場に座り込み、嗚咽を上げ始めた。



ネオがセントラ城に到着すると、すでにレイは入城しているとの事だった。
彼はまだ街に残っている残党狩りの指揮をしていた為、セントラ城へ到着するのが遅くなってしまったのだ。
早くレイに会いたい。
ネオは半ば駆け込むようにして城に入って行った。
セントラ城を懐かしむ余裕も無く、彼は城内を駆け巡った。
レイに正体を明かし、そして許しを乞う為に。
そして彼は目撃してしまった。
妻と、そしてその妻の唇を奪っている男を。
妻はこちらに背を向けているので、どのような表情をしているか分からない。
二人はもつれ込むようにして一室へと入って行った。
「そうか・・・・・・・」
震える声。
「そうだったのか・・・・・」
どす黒い嫉妬の炎がネオ、いや、シンジ・イカリの心の中で生まれた。
拳を握り締め、暴発しそうな感情を押さえ込もうとする。
「は・・・はは・・・・そうさ・・・・待てる訳がないんだ・・。そうだよ、僕だってそうだったじゃないか・・・・ははははは。何を怒ってるんだ俺は???自分がした事を彼女もしてるだけさ・・・・・ふふふ・・・・はははははははは!!」
大声で笑い出した彼は、兜を脱ぐと壁に叩きつけた。
秀麗な顔は嫉妬と怒り、そして絶望で醜く歪んでいた。
彼は妻と男が入って行った部屋の扉を一瞥すると、まるで狂ったように笑いながら連合軍とラングレー騎士団の幹部達が集まってきているだろう謁見の間へと向かって歩き始めた。




To be continued.....




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